【地方創生は実現するのか】第9回:「地方創生特区」の具体例―愛知県(その2)

知見・スキル
2017年05月31日

前回お伝えしたように、愛知県の特区では産業振興の基盤である「人材」を特に重視し、教育、そして創業・雇用での規制改革に取り組んでいます。自動車産業の集積地として、日本の製造業の中核をなす愛知県だからこそ、その成果に期待が集まっているのです。
そして愛知県の特区では、農業についても積極的な規制改革に取り組んでいます。いまからその具体的な内容について、見ていきましょう。


■愛知県の試み 3.農業の規制改革

トヨタ自動車の存在や、中京工業地帯の中心地域であることから、愛知県は自動車産業、製造業のイメージが強い県です。しかしその一方で、肥沃な濃尾平野が広がっており、農業の立地としても恵まれています。特にキャベツの生産量では全国1位(平成27年)を誇るなど、農業産出額では全国ベスト10に入る農業県でもあるのです(たしかにスーパーに行くと、愛知県産の野菜ってけっこう見ますよね)。
そんな愛知県の農業に関する規制改革について、詳しくご紹介いたします。


・「6次産業」ってなんのこと?

愛知県の特区での農業改革では、「6次産業化」というキーワードが随所に出てきます。
6次産業とは、農業・水産業などの第1次産業が、食品の加工・流通・販売にも業務を展開する事業形態のことを指します。
これにより農家の収益向上や経営の多角化、さらには新たな雇用の創出にもつなげられます(加工施設や販売店舗を作れば、そこでも人を雇いますよね)。よって6次産業化は、農業の活性化における有力な戦略として期待されているのです。
この「6次産業化」という方向性を頭に入れて、愛知県の取り組みを見ていきましょう。


・農地用区域における「農家レストラン」の設置

近年、「農家レストラン」というのが流行っているのをご存知でしょうか。農家が自家生産した食材を、農家が自ら調理し、提供するものです。生産者の顔が見えるうえ、新鮮な食材を健康的に味わえることが人気で、性別・年代問わず幅広い支持を得ています。
しかし農家は、必ずしも自分の農地を勝手にレストランにできるわけではありません。自治体により「農用地区域」に指定されたエリアは、農地およびその関連施設(畜舎や倉庫など)に用途が限定されてしまうからです。


愛知県の特区では、その規制にメスを入れました。農家レストランも「農業用施設」と位置づけることで、「農用地区域」でも農家レストランを設置できるようにしたのです。これにより、農家の所得向上や、レストラン設置にともなう新たな雇用創出はもちろん、6次産業化の推進も期待されているのです。
(農家が農業生産だけでなく、食品の加工や、外食サービスにも業務を展開するのですから、まさに6次産業のお手本のような事業形態なわけです)


・農業生産法人の役員要件を緩和

農地を所有できる法人は、役員(取締役などの重役)についての要件が定められていました。
「役員の過半数が農業に常時従事していなくてはならない」
といった、役員構成上の条件があったのです。
しかしこれだと、農業従事者以外を取締役などにすることが難しくなるため、農業以外へ経営を多角化するうえで足かせとなってしまいます(なんだか、よく分からない規制があるものですね)。


そこで愛知県の特区では農業の6次産業化を後押しすべく、この規制を撤廃したのです。
(その後2016年に、全国的に規制緩和されました)


・農業への信用保証制度の適用

信用保証というのは、中小企業が融資を受けやすくするための仕組みです。小さな事業者が金融機関からお金を借りようとしても、信用が足りないため融資を受けにくいという問題があります。そこで、信用保証協会が「借金を返済できなくなったら、こちらで肩代わりしますよ」という保証を与えることで、金融機関が融資をしやすくなります。こうした信用保証は、中小・零細事業者が事業資金を得るための大切な制度です。


しかし信用保証協会の保証制度は商工業が中心であり、農林水産業は基本的には対象となっていません。そのため愛知県の特区では、農業事業者が金融機関からお金を借りやすくなるよう、信用保証システムを充実させることにしました。
「農業を、商工業とともに行う事業者」については、県の信用保証協会が保証を与えることができるようにしたのです。


ここでは、保証制度の対象を「農業を、商工業とともに行う事業者」としています。農業の枠にとどまらず、他業種へ経営を多角化しようとする事業者を対象としている点が大きなポイントです。
もうお分かりでしょうが、ここでも「農業の6次産業化」を推進しているわけです。それだけ6次産業化というのは、農業の未来を切り開くうえで欠かせない考え方になっているのですね。


・農地の流動化の推進

農業を発展させるうえで「農地の流動化」というのが大きなテーマになっていることをご存知でしょうか?
農家の高齢化により休耕地が増えていることや、狭い土地での非効率な農業は、農業全体にとって深刻な問題です。これを解決するには、農地の権利を(売買や賃借で)移動し(=農地の流動化)、休耕地の活用や、農家の大規模化・効率化を進めることが、農業の発展に欠かせないとされています。


このテーマについて、愛知県は常滑市(とこなめし)で改革を行い、自治体と農業委員会の役割分担を見直しました。
これまで農地の権利移動においては、自治体に置かれた「農業委員会」というところがすべての業務を取り仕切っていました。しかし今後は、自治体(常滑市)が権利移動に関する事務を行い、農業委員会は農地のあっせんや、遊休農地の解消のみを行うことにしたのです。


一見、地味な制度変更のようですが、なるほどと思わされます。煩雑(はんざつ)な事務作業は自治体に任せ、農業委員会は農地の有効利用推進に特化しようという話です。
常滑市での試みが上手くいくか、注目したいですね。


以上見てきたように、愛知県では農業についても意欲的な規制改革に取り組んでいます。彼らの試み―特に農業の6次産業化の推進が功を奏すか、その成り行きから目が放せません。


記事制作/欧州 力(おうしゅう りき)


ビジネスノマドジャーナル編集部
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