【フリーランスと働き方改革】第9回:「東京在住だから稼げる」というバイアスを壊したい

新しい働き方ブログ
2017年05月16日

「働き方やキャリア形成を主なテーマにしたいです」。


そんなことをいろいろなところで話し続けていった結果、ありがたいことに関連する取材案件に参加する機会がどんどん増えていった。HR業界出身のフリーランス・ライターとして、自分が最も力を発揮しやすいテーマであり、最も興味を持って取材できるテーマだと思っている。


働き方改革がホットな話題となる中、先進的で独創的な働き方を実現している企業も増えてきている。その中でも特に興味を持っているのが、社員がほとんどオフィスに出社しない「リモートワーク」や、地元や縁のある土地など社員が希望する場所で働ける「完全在宅ワーク」など、場所に縛られない働き方を実践している企業だ。


こうした制度を運用する企業へ取材して、ある共通項に気づいた。それは「介護」という現役世代の大きな課題に直面する社員の存在だった。


30代は、子育てだけでなく「介護」の問題も抱えている

僕自身(現在34歳)もまさに同世代だが、現役ビジネスパーソンのミドル層、今後のマネジメント層になるべき30代の人たちは、「子育て」「介護」の2つの課題に直面している世代だ。


未だ深刻な都市部での待機児童問題に加えて、団塊世代の親を持つ人が多いこの年代は潜在的に介護の問題を抱えている。人口ボリュームの多い団塊世代では、家族の介護を必要とする人の数も間違いなく今後増えていく。そこに真正面から向き合うことになるのが、現在30代の、脂の乗り始めたビジネスパーソンなのだ。


現状でも不足状況が続く介護施設は、今後さらに「入りづらくなる」ことが予想される。こんな言い方が適切だとは決して思わないが、待機児童ならぬ「待機老人」の急増が深刻な社会問題となりつつある。


自宅で親に寄り添いながら収入を維持するために

その結果として予想されるのは、現役ど真ん中のビジネスパーソンが親の介護を理由に離職せざるを得なくなる「大量介護離職時代」の到来だ。リモートワークを全面的に導入しているある企業では、制度の背景を「介護離職を防ぐための対策」であると話していた。


実際に親の介護と向き合いながらリモートワークを続けている人の話も聞いた。施設に入ることなく介護を続けるには、外部ヘルパーなどの力をフルに借りたとしても、家族が常にそばにいられる状況でなければ厳しい。「父親が病に倒れ、その介護で疲れ果てた母親も倒れてしまって......」という話もあった。


仮に実家と職場が徒歩10分の距離だとしても、通常通りに出社して業務にあたるのは非常に困難だと思う。実際にこの企業ではかつて、親の介護を理由に退職せざるを得なかった人がいたという。「自宅にいて親に寄り添いながら、仕事を続けてそれまでと変わらない収入を得る」。そんな働き方を実現するためにリモートワークの可能性を研究し続けてきたのだ。


フリーランスという働き方の価値を真に発揮できているか?

フリーランスという「可動性の高い」働き方をすることも、そうした将来への課題に備える一つの手段だと思う。フリーランスとは、一つの企業から得る賃金だけに頼るのではなく、自身のスキルや知見をたくさんの企業に提供し、換金化していく生き方だ。だからこそ場所や時間に縛られず働くことができる。


僕自身の例で言うなら、日々さまざまな企業に足を運ぶ「取材」という仕事をリモートで行うことができれば、世界中のどこにいてもライター業が成り立つはずだ。今でも地方在住の人に取材するときには電話で行うことが多い。Skypeやハングアウトなどを使えば互いの顔を見ながらインタビューできる。


とはいえ現実は程遠い。現段階で担当できている案件の数や収入は「東京にいるから」実現しているのだと、心のどこかで思いながら仕事をしている。これでは、可動性の高いフリーランスという働き方の価値を真に発揮できているとは言えないのかもしれない。


僕もいつ家族の介護と向き合うことになるか分からないわけで......。「東京在住なので首都圏の案件に対応できます」という自分自身のバイアスを、どこかで壊さなければならない日が来るのだろう。リモート取材で同じクオリティを保ち、クライアントのコスト負担も軽減できるような提案を試験的に始めていく。そうした取り組みが必要だと感じている。


そんなことをあれこれと考えながらこの原稿を書いていたら、自宅に新築マンションの営業さんが飛び込みでやってきた。「月々のローン支払いは今の家賃とほとんど変わりませんよ」「この物件なら将来的に売却する際の資産価値も期待できますよ」......。


家を買う、とは何を意味しているのだろう。経済だけでは割り切れないものがそこには含まれているように思う。それがまた一つ「場所に縛られる」ということを意味するのだとしたら、熱心な営業さんには申し訳ないけれど、なかなか乗り気になれないのだ。


記事制作/多田 慎介


【ライター】多田 慎介
フリーランス・ライター。1983年、石川県金沢市生まれ。大学中退後に求人広告代理店へアルバイトとして入社し、転職サイトなどを扱う法人営業職や営業マネジャー職に従事。編集プロダクション勤務を経て、2015年よりフリーランスとして活動。個人の働き方やキャリア形成、企業の採用コンテンツ、マーケティング手法などをテーマに取材・執筆を重ねている。

ビジネスノマドジャーナル編集部
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