【やりたいことをあきらめない】複業研究家が教える「スパイラルキャリア」の築き方−HARES・西村創一朗さん

経営者インタビュー
2017年05月01日

「二兎を追って二兎を得られる世の中を創る」−。"複業研究家"としてのミッション達成に向けてひた走る西村創一朗さんは、自身がまさに八面六臂(はちめんろっぴ:ひとりで多方面にわたる、または何人分もの、働きをすること)の活動を続けています。


19歳で学生結婚し、父親に。理想の父親像を求めて参加したNPO法人ファザーリング・ジャパンでは学生支部を立ち上げ、新卒入社したリクルートキャリアでは会社に在籍したまま自身の会社・HARESを設立しました。2016年12月以降はHRイノベーションを専門に、複業家のためのオンラインサロン運営や長時間労働是正に向けた政府への提言、働き方改革の推進など、さらに活躍の場を広げています。


副業容認に舵を切る企業が増える中、西村さんが推進する「複業」を実践する人も増えてきました。一方では就業規則の制約を受けたり、一歩を踏み出す決心がつかなかったりして、新しい働き方を実践するチャンスがつかめない人も多いのではないでしょうか。


二兎にとどまることなく、たくさんの兎を追いかけ続ける西村さんは、どのようなキャリアを歩んで現在の生き方にたどり着いたのか? 副業・複業にデメリットはないのか? これからのキャリア形成に必要なこととは? さまざまな疑問をぶつけました。


前向きに将来を考えるきっかけとなった、ジョン・F・ケネディの言葉

Q:「西村創一朗」という人がどのようにして現在の生き方にたどり着いたのか、とても興味があります。少し掘り下げる形となりますが、子ども時代のことも含めて教えていただけますか?

西村創一朗さん(以下、西村):

僕の実家は母子家庭で、さらに母親が病気で倒れてしまい働けなくなってしまったため、本来なら進学すらできない環境だったのかもしれません。生活保護という仕組みのおかげで何とか生き延びることができ、高校や大学へ進学できました。一緒に暮らしていた家族は母親と2人の妹。もし国の制度がなかったら、税金を納めて助けてくれる世の中の人たちがいなかったら、皆生きていけなかったかもしれません。


学校の先生も僕のことを気にかけてくれました。中学3年生のときに、担任の先生から「進路はどうするんだ」と聞かれました。「高校には行きません。家計のためにバイトでもします」と答えたら、ものすごく叱られて......。その先生は社会科教師。俺が公民の授業で教えたジョン・F・ケネディの大統領就任演説の言葉を覚えているか? と言うんです。


「国があなたのために何をしてくれるかではなく、あなたが国のために何ができるかを考えよう」


15歳になった今のお前には、この言葉の意味が分かるはずだ、と。


それがパラダイムシフトの瞬間。「家庭のせい」にして何となく将来をあきらめていた自分を奮い立たせてくれました。「家族や社会に恩返しをしたい」「恩返しをするためにはちゃんと高校へ行かなきゃ」と思うようになったんです。それを実現するために、大学にも進みました。


それからはずっと「誰のために、何のために働くか」を考え続け、僕の今のキャリア観につながっています。


「安定」は与えられるものではなく、自分でつかみにいくもの

Q:西村さんは19歳で学生結婚し、父親となりました。この出来事もキャリア観に影響を与えていますか?

西村:

そうですね。まさに想定外の出来事で......。まさか自分が10代で父親になるとは思いもしませんでした。


当初は退学して働くつもりでした。でも彼女の両親にそのことを話したら、「大学を出てちゃんと働いて稼ぎ、娘と生まれてくる子どもを幸せにすることが君の責任だ」と諭してくれて。それからは授業の合間を縫って、週に6日、アルバイトをしていました。


「公務員になって社会に恩返しをする」という目標に向けて本気で歩むために、大学1年の後期からは行政学のゼミも受講しました。「公務員」は「サラリーマン」と同じくらい曖昧で、実態が分かりにくい職業だと思っていたので、同じように公務員を目指している人と交流して知識を得たかったんです。でも、そのゼミで公務員になったOBの話を聞くうちに「自分には公務員は向いていないのでは?」と思うようになっていきました。


いろいろな先輩になぜ公務員になったのか尋ねたんですが、「やっぱり安定しているからね」という言葉しか返ってこない。この人たちは「社会に貢献したい」とか「何かを変えたい」というモチベーションではなく、あくまでも自分の安定のために働いているんだ、と感じてしまいました。自分は世の中に恩返しをしようと公務員を志望しているのに、実際に公務員として働いている人はまるで違うじゃないか、と。


Q:そのときの西村さんはすでに妻と子どもがいる立場ですよね。普通に考えれば、「安定」にこそ惹かれるのではないかと思うのですが......。

西村:

それまでの経験から、安定とは環境によって与えられるものではなく、自分でつかみにいくものなのだと思っていました。だから「安定した環境が何よりだよ」と語る公務員を見て、感情的に「一緒に働きたい」とは思えなかったんです。そんな考え方で生きていたら結果的に安定しないんじゃないか? とも思いました。


何とも世間知らずな19歳ですよね。もちろん今は、大志を抱いて行政に取り組んでいる公務員がたくさんいることを知っています。僕はそういう人をとてもリスペクトしています。


そんなことがあって、モヤモヤしながら大学生活を送っているときに「ソーシャルビジネス」という言葉を知り、「ビジネスの力で社会を変える」という考えに感銘を受けました。ある日、偶然目を通した日経新聞の夕刊にファザーリング・ジャパン代表理事の安藤哲也さんを紹介する記事が載っていて、「これだ!」と。ブログを検索してその日のうちに安藤さんに連絡し、会いに行きました。


リクルートキャリアは「公園」のような場所

Q:大学に通いながら週6日アルバイトをし、さらにファザーリング・ジャパンの活動にも参加する。この「複業」をこなす原動力は何だったのでしょう?

西村:

確かに、僕にとっての「複業」の第一歩ですね。学業とアルバイト、さらに子育てにも取り組みながら、1円にもならない活動を続けていました。


先ほどお話した「ビジョンに共感できたから」というのが大きな理由ですが、一方では「自分の軸ができるのでは?」という、キャリアを冷静に考える打算的な部分もあったんですよ。就職活動を目前にして、僕には何も語れるものがありませんでした。公務員への道をあきらめてからはアルバイトしかしていなかった。ファザーリング・ジャパンの活動に純粋に惹かれながら、「就活で語れるような経験ができるかもしれない」と、すがるような気持ちで飛び込んだんです。


実際に得られたものは大きかったと思います。ソーシャルビジネスの意義を知り、父親が育児・家事に参画する楽しさを見出だし、「学生時代の複業」という経験を語れるようにもなりました。結果、リクルートキャリアに就職することができました。


Q:もともとは公務員を目指していた西村さんがリクルートキャリアを選んだのはなぜですか?

西村:

会社員なのに「会社に従属しているという感覚があまりない」人が集まっていて、「こんなことがしたい」という事柄ベースで考える人や、「こうありたい」というビジョンを描いている人ばかり。それを入社前に感じたので、リクルートキャリアで働きたいと思ったんです。かつて僕が勝手に幻滅した公務員の、本来思い描いていた理想像を体現している人たちと働けるのだと思いました。


入社してからもそのイメージは変わりませんでした。もちろん人間なので高い目標の前に自分を見失いそうなこともありますが、芯はぶれない。そんな人たちの集団です。


卒業した今思うのは、リクルートキャリアは僕にとって「公園」のような場所だったということ。いろいろな遊具があって、各々が好き勝手に遊んでいる。そこにいるだけで純粋に楽しく、さまざまな遊びを覚えられるんです。


「力なき愛」では、生きていけない

Q:リクルートキャリア時代の、「最もしびれた仕事体験」を教えていただけませんか?

西村:

最初の3年間は人材紹介事業の営業をしていたんですが、実は2年目で心を病みかけたことがありました。


ずっとインターネット業界を担当していて、2年目からは誰もが知る大手企業を任されたんです。質的にも量的にも非常に高いレベルの仕事を求められました。とてもハードでしたが、その分だけ僕自身の営業成績にもつながっていました。


ところがあるとき、「コスト削減のため人材紹介経由の採用を止める」と言われてしまいました。そのままでは目標を大きく外してしまうので、スタートアップをどんどん新規開拓し、顧客数を増やすことで乗り切ったんです。そうこうするうちにその大手企業の決算期が過ぎ、採用を再開することになりました。それ自体はありがたいことなんですが、一気に業務量が増えたことでキャパシティオーバーの状態に陥ってしまいました。


当時の僕は人に頼るのがとても苦手で......。上司に相談することもせず、「俺が何とかしなきゃいけないんだ」と自分で自分を追い込むばかり。動悸が治まらない、夜も眠れない。気づけばそんな状況になっていて、顧客にも何も貢献できていませんでした。一番まずい状態だったときには、アポイントの帰りに山手線のホームから飛び降りそうになったこともあります。

これはもうダメだと思いました。駅を出て、教育担当を務めてくれていた先輩に「もう限界です」と泣きながら電話しました。


そこから、先輩やリーダーが自分のために貴重な時間を割いてくれたんです。あのときにかけてもらった言葉は一生忘れないと思います。


「今、一番大切なのはお客さんより数字より、お前の健康だよ。お前を苦しめている案件について、全部話してみな」と。


僕が一人で抱え込んでいた業務を丁寧に整理し、それが終わったら遅くまで飲みに付き合い、とりとめもない僕の話を全部聞いてくれました。先輩たちには今でも足を向けて寝られません。1カ月後には何とか健康を取り戻し、「是が非でも恩返しをしよう」「自分も先輩たちのようなリーダーになろう」という思いで再び走り始めました。そして入社3年目、部内でトップの業績を残すことができたんです。


Q:起業した後も1年以上会社に残っていたのは、その感謝の気持ちがあったからですか?

西村:

もちろんそれもありますが、僕は純粋に、リクルートキャリアという会社が好きだったんですよね。もどかしさや不満を感じることもありましたが、「ここよりもいい会社はないだろうな」と思っていました。


現実的な理由もあります。いきなり独立したら生活が成り立ちませんから。ビジョンに突っ走るだけでは食えない。起業の2年前からブログを始めて、それなりのPV数を稼ぐようにはなっていましたが、そんなものは何の保証にもなりません。起業したときには子どもが2人いて、3人目も生まれようとしていました。自分がやりたいことと家族を比べるなら、僕は絶対に家族が大切なんです。


学生時代に教わった少林寺拳法の言葉に、「力愛不二」(りきあいふに)というものがあります。どれだけ力があっても、愛がなければ正しい使い方はできない。逆にどれだけ愛があっても、力がなければ誰かを助けたり人の役に立ったりすることはできない。


「力」はビジネス、「愛」はビジョンですね。そのときの自分には愛しかありませんでした。だから、もっと力を身につけなければいけないと思っていました。


本業にもプラスとなる「スパイラルキャリア」を目指すべき

Q:ここまでお話を伺っていて感じたのですが、西村さんは信念に向けて突っ走る一方で、いつも冷静かつ現実的に物事を考えているんですね。まるでパラレルワールドが交互に展開する村上春樹さんの小説のような......。

西村:

村上春樹さんは大好きなので、そう言われると素直にうれしいです(笑)。パラレルワールドといえば『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』ですよね。あの小説では2つの異なる世界の物語が交互に進み、終盤に向けて少しずつ交錯していきますが、僕が「複業」をやる上で大切だと思うのはあの感覚なんですよ。


最初はパラレルに進んでいたストーリーが絡まり合い、「スパイラル」になる。複業はパラレルキャリアと言われますが、僕は「スパイラルキャリア」を意識するべきだと思っています。どうせやるなら、本業と交わらないパラレルキャリアよりも、本業とがっつり交わるスパイラルキャリアのほうが絶対に良いです。


僕の場合はまず「HR×営業」という本業があり、「ブロガー」になることで複業を始めました。そこでいろいろな人と知り合い知見をもらったことで、「リクルートキャリアの新規事業企画」に挑戦するチャンスが得られたんです。その後「起業」し、HARESの事業を通じても多くの人と知り合いました。その人脈は「リクルートキャリアの人事採用担当」としての成果につながっています。




最近はよく「どんな副業を選べばいいのか」と質問されます。向き不向きは人それぞれですし、確実なことは言えませんが、少なくとも「その仕事を副業にすることで本業にもプラスになるか」という観点は持っておくべきですね。逆に言えば、これまで一つの仕事しか経験したことがないという人は、副業を始めることで本業での新たなキャリアにつながっていく可能性が大いにあると思います。僕自身、ファザーリング・ジャパンでの活動を除けば法人営業の経験しかありませんでしたから。


あまり「キャリア、キャリア」と堅苦しく考えず、プライベートでの趣味や没頭していることを起点に考えてみると、視野が広がるかもしれません。


オンラインでの発信と、リアルでの溝

Q:複業を実践している人がいる一方で、今ひとつ踏み切れない人も多いと思います。西村さんは複業をしていて、デメリットを感じたことはありますか?  ブロガーとして社外にどんどん自分の意見を発信する中で、有名税を払わされるようなことは?

西村:

社内では、直接的に何か言われたり被害をこうむったりしたことはありません。リクルートキャリアは副業容認の会社ですし、自分がブロガーや起業家として活動していることは同僚や先輩、上司にも話していたので。


ただ、「オンラインでの発信が増えれば増えるほど、リアルでの溝が広がっていくんだな」と感じたことはあります。


2014年4月に新規事業部門へ異動しました。そのときの上司は僕にとっての「企画の師匠」で、とても尊敬している人です。1年間上司・部下の関係で過ごし、オフラインでもオンラインでも活発にコミュニケーションを取っていました。僕が社外で発信する内容もいつも見てくれていました。


2015年4月にその上司が昇進し、別々の部署になったんです。オフラインでのコミュニケーション量は減り、オンラインのコミュニケーションが中心になりました。上司からすれば社内で僕と接する機会は激減しましたが、ネットでは相変わらず絡んでいる状態だったわけです。つまり、「西村は社外活動ばかりが目立つ」ようになってしまった。


その落差が誤解を生んだのでしょう。僕自身は本業でのパフォーマンスは何ら落ちていないつもりでしたが、ある日その上司から「社外の活動ばかりやっていると一流の企画マンにはなれないぞ」と言われました。それがもう悔しくて悔しくて。Twitterで「ちくしょう! 起業だ!」とつぶやきました(笑)。それがHARESを立ち上げたきっかけです。


Q:社外で目立てば目立つほど、社内でのコミュニケーションをより密にしていくべきなのかもしれませんね。ちなみに会社が副業禁止で、先々も解禁される可能性がない場合はどうすればよいのでしょうか? 副業可の会社に転職するべきですか?

西村:

「伏業」をオススメします。副業禁止の会社に副業がばれた人の話はたくさん知っていますが、その中でクビになった人はほとんどいません。そもそも社員の業務時間外の行動を縛る副業禁止規定は法律的に無効。仮に副業が理由で解雇されたとしても、訴えれば勝てるでしょう。


......とは言え、会社に楯突いてまで副業を続けるのはストレスが溜まるでしょうし、「伏業」ではできることに限りがあるのも事実なので、可能ならば副業可の会社に転職したほうが可能性は広がると思います。


やりたいことをあきらめたり、収入ダウンを覚悟したりする必要はない

Q:将来の不透明性が増し続ける中で、「これから複業にチャレンジしたい」と考える人は確実に増えていくと思います。西村さんは今後、複業研究家としてどのような支援を行っていくのでしょうか?

西村:

先ほどあったように副業を禁止する会社はまだまだ多いですし、可能な環境であっても「本業が忙しすぎて時間が取れない」「何から始めればいいのか分からない」という人はたくさんいます。そうした方々へ有用な情報を届けられるよう、2016年12月に「HARES COLLEGE」というオンラインサロンをオープンしました。


ここでは複業化に向けたノウハウやオススメの仕事を紹介したり、Q&Aに答えたり、複業家のインタビューを掲載したり、リアルな場での朝活を開いたりしています。


その根っこにあるのは、「WILL×CAN×WANT」という複業を成功させるための方程式です。




「WILL」(やりたいこと、好きなこと)と「CAN」(得意なこと、できること)を明確にし、「WANT」(人の役に立つこと、世の中のニーズ)につなげていくためのコーチングを行っています。


誰しも「好きなことを仕事にしたい」と考えるものです。しかし現実には、「本業=好きなこと」だという幸運な人はごくわずか。一昔前なら、やりたいことを我慢してあきらめるか、収入ダウンを覚悟の上で転職するしかありませんでした。


それが今は、会社を辞めることなく、「やりたいこと」や「得意なこと」に複業として挑戦することが当たり前になりつつあります。会社に守られるだけでなく、個人の力でも勝負していく複業は、これからの時代を生き抜くための働き方のスタンダード。かつての僕がそうだったように、きっかけは身近なところにあるはずです。スパイラルキャリアを支援するために、そのコンセプトを見つけるためのお手伝いを一つでも多く積み重ねていきたいと思っています。


取材・記事作成:多田 慎介


西村創一朗さん プロフィール
株式会社HARES代表取締役社長/NPO法人ファザーリング・ジャパン理事/Medium Japan Editor 1988年、神奈川県生まれ。首都大学東京法学系在学中に学生結婚し、19歳で父親となる。同大学在学中にNPO法人ファザーリング・ジャパンへ参加し、後に最年少理事。2011年に新卒でリクルートエージェント(現:リクルートキャリア)に入社し、2016年12月の卒業まで人材紹介事業の法人営業、新規事業企画、人事採用担当として活躍。2013年にブログを開設し、月間20〜30万PVを叩き出すまでに成長させた。2015年6月、複業家や複業家を目指す人を応援するためにHARESを設立。

ビジネスノマドジャーナル編集部
専門家と1時間相談できるサービスX-bookを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。
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