【CTOインタビュー】「技術×ビジネス感覚×プロダクトオーナー経験」で、どこでも通用するエンジニアに−マネーフォワード・中出匠哉さん

経営者インタビュー
2017年04月24日

誰でも簡単に使える自動家計簿・資産管理サービス、法人向けのクラウドサービスを展開し、急成長を続けるマネーフォワード。資金調達サービスや地方創生プロジェクトなど、事業範囲も広がり続けています。


同社の事業展開を支えているのは、「プロダクトオーナー」として活躍するエンジニアです。技術分野の枠を超えてエンジニアがビジネスに関わっていく風土は、どのようにして生まれているのか。CTOの中出匠哉さんにお話を伺いました。


チームとして個人として、ユーザーに価値を届けられているか

Q:「マネーフォワード」は国内FinTechの最前線で注目を集めていますが、組織の拡大にはどのように対応しているのでしょうか?


中出匠哉さん(以下、中出):

ここ最近は月3人くらいのペースで中途採用のエンジニアが入社しています。ものすごい勢いで組織が大きくなってきていますね。創業メンバーのビジョンやカルチャーをいかに継承するかを課題にして、採用の段階から語るようにしています。


マネーフォワードはFinTechという言葉とともに語られることが多いのですが、現社員や新しく入社する人はそんなに意識していないんですよ。ただ、「生み出すサービスが世の中の役に立っている」ということに大きな誇りを持っています。世の中に価値提供することが私たちの存在意義で、今はその手段としてFinTechをやっているという感じですね。


「人の暮らしを豊かにしたい」という思いを根っこに持って、モチベーションを感じられる人が仲間になっています。


Q:エンジニアのキャリアパスや評価制度については、どのように考えていますか?

中出:

いちばん大切なのはユーザーに価値を届けることで、技術はそのために必要なもの。「ユーザーにより良いサービスを提供するために技術を磨くんだ」という考え方がぶれないようにしています。どれだけ技術力を身につけても、それがユーザー価値につながっていなければ評価できません。いかにユーザーに貢献できたかを評価して、キャリアパスにつなげていきたいと思っています。


その前提に立って、評価では「チームとして価値を届けられたかどうか」をまず見ています。
その次に、チームの中で誰がどのように貢献しているかが分かるようにしていく。サッカーチームで例えるなら、直接ユーザーに価値を届けるフォワードのポジションも大切だし、不具合によりユーザーにご迷惑をおかけしないように品質を担保し、仮に不具合があっても影響が最小限になるように対応するディフェンダーのポジションも大切。球拾い的な役割をこなしてくれる人、あるいは強い発信力で仲間を連れてくる人も大切。チームとしての成果をベースに、個人の貢献度合いをしっかり評価するようにしています。


「疑問を感じてしまうUX・UIでごめんなさい」

Q:プロダクトベースでチーム作りをすることのメリットは何ですか?

中出:

エンジニアがユーザーの声を聞き、仕事に反映できる機会が豊富にあることですね。


例えば自動家計簿・資産管理サービスのチームは、カスタマーサポートの島の隣にエンジニアの島を置いているんです。そこで1日に誰か1人は必ず、エンジニアが技術的な問い合わせのサポートに入るようにしています。ユーザーの喜びの声を聞いたりクレームを聞いたりすることは、サービス開発を行う上では本当に良い経験になっていると思います。


Q:エンジニアが直接ユーザーとやり取りをするのですね。

中出:

はい。法人向け事業ではエンジニアが会計事務所へ行くこともありますし、社内のチャットへ顧客企業にも入ってもらい、エンジニアが直接やり取りをすることもあります。エンジニアがユーザーの生の声を聞く機会を作れるよう、強く意識しているんです。


もともとユーザー志向があまり強くなかったエンジニアも、こうした機会を通じて意識が変わっていきます。低品質なサービスを作ってしまったら、カスタマーサポートの仲間が矢面に立つことになる。「お問い合わせをいただく仕様でごめんなさい」「疑問を感じてしまうUX・UIでごめんなさい」とエンジニアが言っている場面もありますよ。


Q:エンジニアにそこまで顧客志向の徹底を求める企業は少ないように思います。

中出:

マネーフォワードでは伝統的に、エンジニアがプロダクトオーナーを務めているんです。今でも大半のサービスがそうですね。エンジニアはものづくりをするだけではなく、サービス全体に責任を持つ立場です。このやり方を継続していきたいと思っています。ものづくりのプロであると同時に、ビジネス感覚も磨き続けてほしいんです。


Q:一般的には、「技術には自信があるけどビジネスの知識はちょっと......」というエンジニアが多いのではないでしょうか?

中出:

最初から優れたビジネス感覚を身につけているエンジニアはほとんどいないと思います。社内でも、なるべく他部署の人とコミュニケーションを取って、少しずつ身につけていってもらうようにしています。すでにプロダクトオーナーを務めているエンジニアの下で働く機会も作っています。


エンジニアリングの技術に加えてビジネス感覚を持ち、さらにプロダクトオーナーとしての嗅覚があれば、社外に出ても重宝される存在になれると思うんですよね。エンジニアだけで固まるのではなく、ビジネスサイドの人間とともに行動することで、そうした経験を積んでもらっています。



変化を恐れず、冒険を楽しみたい

Q:中出さんご自身のキャリアについても教えてください。

中出:

大学時代からソフトハウスでのアルバイトでエンジニアリングに関わり始め、今で言うインターンのような形でプログラムを作っていたんです。そのままその会社に就職して、そこで出会った顧客にいただいたご縁でテレビ通販の会社に移りました。


ソフトハウスではプログラムを書くことが主業務でしたが、テレビ通販会社では事業会社のIT部門として、自分たちで売上を作っていく立場でした。入社当時は10名程度だったIT組織が、在籍していた6年間で100名を超える規模に。キャリアも経験もまだまだでしたが、マネジャーというポジションで大きなIT組織チームを動かし、「1000億円の注文を受け付ける受注システムを作る」といったやりがいある仕事を経験させてもらいました。まさに、先ほどお話したようなビジネス感覚を身につけることができた場所でしたね。
その後、金融機関向けのシステムを作っているSIerに移りました。


Q:すでに責任と権限がある立場で仕事をしていたと思うのですが、なぜあえてそこから転職したのですか?

中出:

より高いレベルの技術を身につけたいと思ったんです。通販会社の仕事でIBMなどの大手SIerのエース級のエンジニアと絡む機会があったんですが、そこでレベルの差を痛感して......。当時、SIerには、技術力のあるエンジニアがたくさんいたので、「井の中の蛙になってはいけない」という思いで飛び込みました。


転職にはもう一つ理由があって、「これからは金融分野がITの先端になるのでは?」という仮説を持っていました。金融取引のシステムは非常に高い信頼性を求められるし、大量の注文をさばくためのレイテンシ(latency:データの転送要求などのリクエストを発してから、リクエストの結果が返ってくるまでにかかる遅延時間)も問われる。自分を成長させるにはうってつけの環境だと思いました。結果的にそれが、マネーフォワードでの仕事にもつながりました。


Q:CTOとしては、今後どんなことに挑戦していきたいと考えていますか?

中出:

常に新しいことに取り組みたいと思っています。


直近では、クラウドサービスを展開する中でいろいろなデータが蓄積されてきているので、これを上手に活用することができれば、「ユーザーへの新たな価値提供」につながるのではないかと考えています。当然ですが、ユーザーの同意に基づく価値提供が大前提です。


一例が資金調達サービスの「MFクラウドファイナンス」です。中小企業は資金調達が大変で、金融機関の審査でも苦労しています。「MFクラウド会計・確定申告」や「MFクラウド請求書」で集まってきたデータを金融機関に提供することで、書類をたくさん書かなくても融資を受けられるようになりました。


個人向けのサービスにも、例えば生活費を安くできるような、蓄積されているデータを元にユーザーへ新しい価値を提供できる可能性があると思いますし、そういう顧客価値を提供できる領域により注力していきたいと考えています。


実はマネーフォワードで悔しい思いをしていることが一つあって、「もっと早い時期にジョインしたかったな」といつも感じるんです。創業当初には生きるか死ぬかのような時代があった。そんな成長途上の環境に身を置いて、一緒に冒険したかったな、と。「変化を恐れない」というマインドはどんなステージでも大切だと思いますが、企業が大きくなるにつれて薄れていくのも事実です。マネーフォワードという組織がそうならないためにも、常に挑戦者の気持ちで新しい取り組みを続けていきたいですね。



取材・記事作成:多田 慎介


中出匠哉さん プロフィール
株式会社マネーフォワード開発本部・技術部部長CTO。2001年にジュピターショップチャンネル株式会社に入社し、ITマネジャーとして注文管理・CRMシステムの開発や保守、運用を統括。2007年からはシンプレクス株式会社で証券会社向け株式トレーディングシステムの開発・運用・保守を経験し、FXディーリングシステムのアーキテクト兼プロダクトマネジャーとして開発を統括。2015年、株式会社マネーフォワードに入社し、PFM(Personal Finance Mangement)システムの開発に従事。2016年より現職。

ビジネスノマドジャーナル編集部
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