【フリーランスと働き方改革】第4回:「ライターとして生きていくんだ!」という意気込みはもう必要ない

新しい働き方ブログ
2017年04月11日

「取引先は1社のみ」というあまりにも無謀な状態でスタートを切ったため、僕のフリーランス生活は出だしから大きくつまずくことになった。


2週間まったくスケジュールがないという状況に直面し、やむを得ず派遣会社に登録してお菓子の袋詰めやコールセンターといった仕事もやった。お菓子の袋詰めの時給は最低賃金、コールセンターは1100円。稼働の2日後に給与が振り込まれるという仕組みで、どうにかこうにか空白の2週間にも収入を得ることができたのだった。


ライターとして生きていくためにフリーランスになったのにも関わらず、生活のためにまったく違う仕事をしているわけだから、忸怩たる思いはもちろんあった。しかし一方で僕は、この経験を通してある種の「開き直り」をすることもできた。自分がその気になれば、どんなことをしても生きていくことはできるのだという気づきだった。


リストラなのか、セミリタイヤなのか。

僕の場合、困難な状況に出くわしてもくよくよすることはほとんどない。「済んだことは仕方がないから次のことを考えよう」と自然と考えてしまうタイプだ。良く言えばポジティブ・楽天的。悪く言えば反省がない人間だとも思う。その証拠に、派遣の職場は、自分の心持ち次第で実に楽しい場所となった。


お菓子の袋詰めでもコールセンターでも、現場にはさまざまな属性の人がいる。10代の若者もいれば、僕と同じような30代、そしてさらに上の世代も。特に僕が興味を持ったのは50代以上の人だった。


コールセンターでインバウンド(受信対応)の仕事をしていると、電話がほとんど鳴らずに暇を持て余す時間帯がある。もちろん私語は禁止なのだが、隣のブースにいる人にちょっと話しかけるくらいのことならバレない。そのとき隣にいた男性は、ラフな私服姿の若者が多い職場にあって、一人だけスーツにネクタイでびしっと決めていた。齢は60近いと思われる。電話の受け答えは極めて丁寧かつ冷静で、どぎついクレームが来てもまったく動じない。僕はずっと求人広告を作る仕事をしているから、こうした「ちょっと特殊」な存在を見るとつい質問したくなってしまう。自分のことは完全に棚に上げて......。


「どうして派遣でコールセンターの仕事をしているんですか?」


「家のローンを払い終わったし、子どもが皆大学を卒業したから、しんどいサラリーマン生活を続けてまで稼がなくてもいいや、と思ったんだよね。ここはいいよ。シフトの希望を聞いてくれるし、仕事は楽だし、重圧もほとんどない。今では妻より稼ぎが少ないけど、まあそれでいいかな」


所詮は短期間の、その場限りの人間関係だ。その男性がどこまで本当のことを言っているのか分からない。本当はリストラに遭ったばかりなのかもしれない。ただ、着ているスーツは素人目にも上質なものだった。実際には多額の蓄えを背景にしたセミリタイヤのようなものなのかもしれない。


フリーランスとは「可変性のある生き方」

少し飛躍した考え方かもしれないが、僕はそのときに「この人もフリーランスとしての人生を生きているのだ」と感じた。人生では、さまざまなフェーズにさまざまな選択肢がある。住宅ローンや子どもの教育費用といった金銭的な縛りから解放され、同時にストレスフルな職場からも解放されたいと考えた人にとって、派遣社員という働き方は「最低限の収入を得ながら自由に生きていく」ための最善の方法なのではないか。


僕自身も、営業職での経験を生かして目の前のクレーム対応を難なくこなしている。それが空白の2週間を埋める収入源だ。1日働けば、1万円近い収入。派遣会社に登録したときは「ライターであるはずなのに自分は何をやっているんだろう?」と感じたものだが、その男性の話を聞いてからは考え方が変わった。「この2週間の収入を、自分で立てた売上目標にしっかり計上しよう」と思うようになったのだった。


その2週間が過ぎた後、かつての勤め先から案件を発注してもらったり、学生時代の旧友との縁で新たなプロジェクトに参加できたりと、運良くライターとしての仕事に恵まれるようになった。コールセンターに出勤することはなくなったが(そんな都合の良い話が通じるところもまた素晴らしい仕組みだ)、あのときに感じたことは単なる開き直りを超えて、今も大切にしている。


あの経験は僕に「可変性のある生き方」というフリーランスの定義をもたらした。人工知能に仕事を奪われる、10年後にはこんな職種が消える......と騒がれる時代だが、自分自身が特定の仕事にしがみついてさえいなければ、何も恐れる必要はないと思うようになった。


「次はどんな方法で、どんな手段で稼いでいくか」を常に考える

技術は進歩する。世の中は変わる。だから、自分も変わり続けるしかない。フリーランスならその変化に対応することは容易だ。成功するかどうかは別として、新たに肩書きを設けて取引先を開拓することもできる。自分のスキルを生かしてどこかの企業で働くという選択肢もある。あるいは起業して新規事業を始めるという可能性も。


ライターの仕事にしても、1年先には需要がどう変化しているか分からない。プログラミングに従って人間のように記事を書ける人工知能はすでに登場しているし、コンテンツマーケティングの潮流が変われば今のようにライターを大量に必要とすることもなくなるだろう。


誤解を恐れずに言えば、「ライターとして生きていくんだ!」という意気込みはもう、いらないのかもしれないと思っている。もちろん、能力を磨き、ライターという職域で自分が提供できる価値を高めていくことは絶対に必要だ。でもそれ以上に、「次はどんな方法で、どんな手段で稼いでいくのか」を常に計画していくことが必要なのではないか。


フリーランスは柔軟に変わっていくことができるし、変わっていかなければいけない。上質なスーツを着てコールセンターに出勤していたあの男性のように50代を過ごせるだろうか。そんなことを考えている。


記事制作/多田 慎介


【ライター】多田 慎介
フリーランス・ライター。1983年、石川県金沢市生まれ。大学中退後に求人広告代理店へアルバイトとして入社し、転職サイトなどを扱う法人営業職や営業マネジャー職に従事。編集プロダクション勤務を経て、2015年よりフリーランスとして活動。個人の働き方やキャリア形成、企業の採用コンテンツ、マーケティング手法などをテーマに取材・執筆を重ねている。

ビジネスノマドジャーナル編集部
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