【「選ばれる経営者」の条件】専門家が「支援したい」と考える経営者の人柄とは 大村健氏×守屋実氏(後編)

対談
2017年02月16日

フォーサイト総合法律事務所・代表パートナー弁護士 大村健氏


変化を続ける市場の中でイノベーションを生み出し、継続的な成長を遂げていくためには何が必要なのか。


企業法務に長年関わり、多数のクライアント企業のIPOを実現させてきた弁護士の大村健氏。「新規事業請負人」としてさまざまなサービスを立ち上げ、大手からベンチャーまで数多くの企業で取締役・顧問・アドバイザーを務める守屋実氏。後編では、お二人の経験から見える「成功する企業・経営者」の条件をじっくりと語っていただきました。


「メディアに登場し始める」「資金調達に成功」......転落してしまう経営者の兆候とは

守屋実氏(以下、守屋):

大村さんのところには、経営者からどのような相談が寄せられますか?


大村健氏(以下、大村):

私のところには、本当にいろいろな相談が来ますよ。「こんな人材がいるけど雇っても大丈夫だろうか?」とか、「どんな人を役員に専任するべきだろう?」とか。伸び悩んでいる企業の場合は、人が離れていってしまうという悩みも多いですね。


守屋:

ベンチャーは、基本的に社長が絶対的な存在ですよね。もともとは社員に対して「助けてくれてありがとう」という感情を持っていたのに、会社が成長していくと「お前たちに成長の場を提供してやっているんだ」という態度になってしまう人も多い。分かりやすいのは社長自身がメディアに出始めたときや、資金調達に成功した後ですね。そういうときに、ちょっと変になってしまう。


資本金が大きくなるといきなり、「経営者とは」とか「マネジメントとは」とか、これまでは使っていなかったような言葉を急に言い出すようになるんです(笑)。そういった気概を持たなければいけないというのは分かるんですが、「社外ウケはいいけど社内ウケは悪い」という変な状況になってしまうような人がいる。


大村:

IPOを進めていても同じようなことを感じますよ。証券会社や監査法人を選ぶ段階になって、社長に自信がついてくると、少しずつ天狗になっていくんですよね。「自分は"選ぶ立場"になったのだ」と思ってしまう。証券会社からしてみれば、上場する企業は、言わば株式の仕入れ先の一つに過ぎません。本来は「選ばれる立場」だと思っていなければいけないんです。


いろいろとIPOに携わってきた中で、上場してから、社長のキャラクターや態度が変わってしまった会社の多くは、残念ながらダメになっています。「社長が昼からしか来なくなってしまった」とか。機関投資家は、必ず社長を見て判断します。社長が働かなくなれば、従業員からも外部からもすぐに気付かれるんですよ。そうなるともう、先は長くないんです。逆に、東証一部に市場変更してからも社長があまり表に出ることなく、粛々とビジネスに取り組んでいる企業もある。そうした会社は将来が楽しみですよ。


誠実に経営する人のもとへ、人が集まる

守屋:

大村さんはたくさんの社長と会ってきたと思いますが、「成功する経営者」は何が違うと感じていますか?


大村:

成長している会社は、まず社長自身が成長していますよね。IPOを目指す理由が「金持ちになりたい」だけだと厳しい。「ウチは儲かっているけど上場したほうがいいかな?」と聞いてくる社長もいますが、それを私に質問する時点で、IPOなんて考えない方がいいんですよ。


新規事業開発のプロフェッショナル・守屋実氏


守屋:

会社が生まれる段階から考えれば、上場できる確率は本当に低いですよね。「2階から目薬を差す」ようなもので。


大村:

そうですね。上場した他社を見ている限りでは簡単に思えるかもしれませんが、実際のところ、上場するというのはとても難しいことです。


守屋:

私は、経営者にいちばん大切なのは「誠実さ」だと思うんですよ。ベンチャーを立ち上げると、当初は経済的なリターンを望めないですよね。それでも付いてきてくれる社員とは「気持ちでつながる」ことが前提なので、不誠実な人はその時点でアウト。もちろん、会社が大きくなれば経済的な成長もついていきますし、気持ちだけではどうにもならないときが来る。だからこそ、そのときどきに必要な誠実さが求められるのだと思います。


例えば、インターネットの力で印刷業界にイノベーションを起こしたラクスルの松本恭攝社長は、会社の成長が波に乗った時点で「ギアを変える」と宣言しました。今まで通りにいかないし、しないから、皆もギアを変えて臨んで欲しい、と。そしてその直後から、実際にさまざまな改革を行った。こうしたアナウンスをすることなく、社長が無自覚に変革を始めると、会社のあちこちに歪みを生みかねません。


大村:

守屋さんはどんな基準でベンチャーを支援しているんですか?


守屋:

まずは「人として合うかどうか」ですね。私は長年、新規事業しかやってこなかったので、新規事業しかできないのですが、やってきたなりに思ったことは、パワーポイントやエクセルの事業プラン資料は「自分自身が作ったものも含めて、あまり信用できないな」ということです(笑)。何もかもが生柔らかい段階においては、下手をすればその週のうちに中身が書き換えられてしまう。「ピボット」(事業の方向転換や路線変更)というカタカナ言葉が世の中にあるぐらいですしね。なので、事業の細かいところよりは、まず人そのものを見るようにしています。


あとは、「その市場で本当に自分が役に立つか」ということでしょうか。私の場合は医療や介護、ヘルスケアなどの市場での経験が長いのですが、それ以外の分野では「本当に自分の起業経験が生かせるのか?」を慎重に考えないと、相手にとっても自分にとっても不幸な結果につながりかねないので。


大村さんはいかがですか?


大村:

基本的には社長と会った上で決めます。やたらとお金の話ばかりしている社長とはあまり付き合いません。あとは......「朝のミーティングで酒臭い」人が個人的にはダメですね。ビジネス上、多少の会食は必要だとは思いますが、平日にフル稼働すべきビジネスパーソンが朝まで飲んでいるのはダメだと思うんですよ。


これはあくまでも私の個人的な感覚ですが、社長個人の人となりを「支援したいと思うかどうかの判断基準」にしている人は多いでしょう。守屋さんの言う通り、誠実に経営者として歩み続ける人が最終的には勝ち残っていくのだと思います。


取材・記事作成:多田 慎介


大村健 プロフィール
フォーサイト総合法律事務所・代表パートナー弁護士。1974年生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。
企業法務(顧問業務を含む)や知的財産権法(特に著作権法・商標法・不正競争防止法)、会社法、金融商品取引法、M&A、MBO、新株(種類株式を含む)・新株予約権(ストック・オプションを含む)の発行などを中心に、IT・バイオ・エンタメ・外食・人材・不動産系など幅広い業種のベンチャー企業に対する法的支援業務を展開。IPOや市場変更に向けた支援実績も多数。複数企業での社外監査役・社外取締役も務める。

守屋実 プロフィール
1969年生まれ。明治学院大学卒。1992年に株式会社ミスミ(現ミスミグループ本社)に入社後、新市場開発室で、新規事業の開発に従事。メディカル、フード、オフィスの3分野への参入を提案後、自らは、メディカル事業の立上げに従事。
2002年に新規事業の専門会社、株式会社エムアウトを、ミスミ創業オーナーの田口氏とともに創業。複数の事業の立上げおよび売却を実施後、2010年、守屋実事務所を設立。設立前、および設立間もないベンチャーを主な対象に、新規事業創出の専門家として活動。投資を実行、役員に就任して、自ら事業責任を負うスタイルを基本とする。
2016年現在、ラクスル株式会社ケアプロ株式会社メディバンクス株式会社株式会社ジーンクエスト株式会社サウンドファンブティックス株式会社株式会社SEEDATAの取締役などを兼任。

ビジネスノマドジャーナル編集部
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