【「選ばれる経営者」の条件】「単なる下請け」にならないよう、ベンチャーはリーガル投資を重視すべき 大村健氏×守屋実氏(前編)

対談
2017年02月15日

大村健氏(右)と守屋実氏(左)


変化を続ける市場の中でイノベーションを生み出し、継続的な成長を遂げていくためには何が必要なのか。そのヒントを得るため、Business Nomad Journalでは経営の最前線で企業支援を続けるお二人の対談企画を実施しました。


企業法務に長年関わり、多数のクライアント企業のIPOを実現させてきた弁護士の大村健氏。「新規事業請負人」としてさまざまなサービスを立ち上げ、大手からベンチャーまで数多くの企業で取締役・顧問・アドバイザーを務める守屋実氏。それぞれの視点から、「成功する企業・経営者」の条件を探ります。前編では、ベンチャー企業にとってのリーガル投資の重要性について語っていただきました。


経営者を見て仕事をする弁護士に依頼すべき

守屋実氏(以下、守屋):

大村さんはベンチャー・中堅企業を中心としたIPO支援で多数の実績をお持ちですね。弁護士として、企業経営を支援したいと考えるようになったきっかけは何ですか?


大村健氏(以下、大村):

私自身、中学生の頃から起業したいという思いを持っていたんです。「やるなら専門資格を持って起業しよう」と考え、オールマイティに活躍でき、参入障壁が高い弁護士を目指しました。大学4年で司法試験に合格し、1999年、24歳のときに弁護士登録。当時はベンチャーのための市場、東証マザーズができた頃で、ベンチャーの上場が注目されるようになっていました。


現在のフォーサイト総合法律事務所は2011年に立ち上げて、現在までの5年間で20数社のクライアント企業がIPOを果たし、10数社のクライアント企業が東証一部市場変更をされています。


守屋:

IPO支援では、具体的にはどのようなことを?

大村:

顧問弁護士として、会社法や金商法のみならず、事業に関する相談やリーガル・オピニオンの作成、ファイナンス周り、人事施策の管理や上場審査などにまつわる法務の支援を中心に行っています。他には広報PRや上場後の適時開示、M&Aに伴う法務アドバイスなども行います。クライアントは、オーナー経営で外部資本の入っていない会社も多いですね。IT系を中心に、リアルビジネスの会社もありますよ。


基本的なスタンスは「常にオーナー側・経営側に立ってアドバイスをする」こと。ベンチャー・キャピタルや事業会社などの外部資本が絡み、今後の事業展開や成長性について厳しい意見が投げ掛けられるときにも、常に企業側の立場で一緒に闘っています。


「何でもやります」というわけではなく、あくまでも成長企業に対する法的支援をテーマにしています。自分自身も起業意欲があり、起業家になりたいと思っていたので、ベンチャーの成長に本気で寄り添っていくことにやりがいを感じているんです。


守屋:

ベンチャー側の目線で言うと、早期から弁護士にお願いするのはしんどい部分もありますよね? お金の部分もそうだし、そもそも「何を相談すべきか」が分かっていないこともある。
生まれて間もないベンチャーにとって、弁護士は少し遠い存在であるようにも思います。


とはいえ、法務面で対応するべきことは初期段階からありますよね。これまでの自分の起業経験の中でも、売上の立っていない、最初の最初のような段階から、弁護士に相談したいなぁ、と思うことが良くありました。


大村:

そうですね。当事務所の場合は、ベンチャーといっても「上場準備に入っているか上場した」クライアントが多いです。そのため、最初は学生時代の友人などの身近な弁護士に依頼し、会社の成長に合わせて、改めて私たちにご相談いただくというケースもあります。設立当初からIPOを目指しているような企業は、早期に相談していただいたほうがいいですね。


守屋:

どのような視点を持った弁護士にお願いするべきだと思いますか?


大村:

「ベンチャーをやっています」という弁護士は多いですが、誰を見て仕事をしようとしているのかはよく見るべきだと思います。実際、ベンチャー・キャピタルや証券会社などの上場に関係する企業側に立って仕事をする人もいらっしゃるんですよ。そういった方々は必ずしもベンチャー側に立ってアドバイスすることに長けている人ばかりではないと思います。


あと、本来は私たちも、上場準備に入る前の段階から関わっていきたいんです。例えば当事務所には、再生医療やドローンを使った事業を進めているクライアント企業がありますが、これらの会社には設立当初から関わっています。こうしたケースを増やしていきたいと思っています。


「弁護士を経営人材として迎える」という可能性

守屋:

最近では公認会計士がCFOに就任するケースが増えていますが、今後、弁護士がCxOとして企業経営に関わる可能性についてはどうお考えですか?


大村:

大いにあり得ると思います。実際に弁護士が役員となっている企業も最近増えてきました。


公認会計士の仕事は基本的に法人相手ですが、弁護士の場合は、司法試験で学ぶ内容からしても法人相手にできるような仕事は全体の20パーセントぐらいしかないんです。司法研修所では教わることの大半は刑事系(刑事系は刑事裁判・検察・刑事弁護の3科目あるのに対して、民事系は民事裁判と民事弁護の2科目)が占めている。民事系でも個人も企業も相手にするので、企業的・経営的な観点で考えられる弁護士はそんなに多くはなく、これまでは役員として経営参画する人は稀だったんですよね。最近では社内弁護士も増えていますし、今後、経営参画する人も増えていくと思います。


守屋:

弁護士の新たなキャリアという意味でも、重要かもしれませんね。


大村:

そうですね。弁護士業界では今、毎年2000人近くが新規参入しています。受け入れられる法律事務所が足りず、いわゆる「そくどく」(即独立する人)、「のきべん」(軒先で勉強しているような人)も多い。流れ作業のような仕事しかできない弁護士も、正直増えていますよ。質がどんどん低下していることは危惧しています。


守屋:

ベンチャーの視点では、「会社法に詳しい弁護士」がどこにいるのか、もっと分かりやすくなればといいと思うんですけどね。


大村:

日弁連(日本弁護士連合会)では、2013年に社外取締役ガイドラインを作成し、弁護士を社外役員としてどんどん投入しようとしています。ただ、認知度があまり高くなく、動きは遅いですね。現状としてはまだ浸透していない。


スムーズな流れとしては、ベンチャー企業の法務を得意とする弁護士がベンチャーに入っていくことが理想ですよね。最近は、弁護士出身で上場企業の社長となった方々が増えています。現状では、司法試験合格を目指す人が大学時代から学ぶことの中に経営という要素はあまり出てきませんが、今後は少しずつ変わっていくと思います。


理想的なバイアウトを追求するためには、リーガル投資が重要

守屋:

今後のベンチャーを取り巻く流れの中で一つ期待していることがあります。これまではIPOイグジット一本やりだったと思いますが、今は、大手企業へのバイアウトが選択肢に入り始めている。これ、イイことだと思うんですよね。


大村:

今後はそうなるでしょうね。歴史を見ても、日本の市場はシリコンバレーから15年から20年ほど遅れています。シリコンバレーではIPOが流行した後にバイアウトが盛んになりました。「バイアウトしかイグジットがない」というケースも含めて、増えていくと思いますね。


守屋:

ただし、大企業だけが都合の良い形、つまりベンチャーが「いち下請け部門」と化してしまうのは避けたいなぁ、と。今のままだとパワー格差がありすぎて、例えば、契約の交渉の場などでは、圧倒的に不利な状況が生まれてしまうことがある。そうなってしまうと、ベンチャーと大企業は何だかおかしな関係になってしまうと思うんですよね。


大村:

そうした意味では、ベンチャーの立場で理想的なバイアウトを追求するような弁護士としての関わりは重要だと思います。バイアウトする際に大きな障壁となるような条項が盛り込まれた投資契約書が提案されることもありますから。そこに毅然と対応することも大切。経営者は目の前のことに集中してしまいがちなので、そうしたサポートは強化したいですね。


守屋:

ベンチャー・キャピタルなどと交わす契約に慣れていればいいんですが、慣れていないと、しばらく時間が経ち、不都合が生じてから初めて、自分たちに不利な条項であったことに気づくということもある。そうするともう、ベンチャーが抱いてしまった不信感をぬぐい去ることは至難だと思うんです。


また、日常的な契約においても、大企業には専門の法務がいますが、ベンチャーでは総務が担当することもあるので、不利に気付かず進めてしまうことがあると思います。ベンチャー側にどんどん弁護士パワーを入れていかないと、世の中にバイアウトやイグジットが増えていく中で、事故も増えていきそうです。


大村:

結構多いですよね。社長同士で話しているときは良い雰囲気でも、法務担当者から後日送られてくる文書はまるで違う温度感になっているというのはよくある話です。ベンチャーとしては、リーガル部門にどう投資していくかを考えることもこれからは大切だと思います。


(後編へ続く)


取材・記事作成:多田 慎介


大村健 プロフィール
フォーサイト総合法律事務所・代表パートナー弁護士。1974年生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。
企業法務(顧問業務を含む)や知的財産権法(特に著作権法・商標法・不正競争防止法)、会社法、金融商品取引法、M&A、MBO、新株(種類株式を含む)・新株予約権(ストック・オプションを含む)の発行などを中心に、IT・バイオ・エンタメ・外食・人材・不動産系など幅広い業種のベンチャー企業に対する法的支援業務を展開。IPOや市場変更に向けた支援実績も多数。複数企業での社外監査役・社外取締役も務める。

守屋実 プロフィール
1969年生まれ。明治学院大学卒。1992年に株式会社ミスミ(現ミスミグループ本社)に入社後、新市場開発室で、新規事業の開発に従事。メディカル、フード、オフィスの3分野への参入を提案後、自らは、メディカル事業の立上げに従事。
2002年に新規事業の専門会社、株式会社エムアウトを、ミスミ創業オーナーの田口氏とともに創業。複数の事業の立上げおよび売却を実施後、2010年、守屋実事務所を設立。設立前、および設立間もないベンチャーを主な対象に、新規事業創出の専門家として活動。投資を実行、役員に就任して、自ら事業責任を負うスタイルを基本とする。
2016年現在、ラクスル株式会社ケアプロ株式会社メディバンクス株式会社株式会社ジーンクエスト株式会社サウンドファンブティックス株式会社株式会社SEEDATAの取締役などを兼任。

ビジネスノマドジャーナル編集部
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