【事例から学ぶ働き方改革】第2回:少ない社員なのに収益力No.1の秘訣は「朝型勤務」にあり 伊藤忠商事株式会社(前編)

新しい働き方ブログ
2017年02月05日

安倍総理が「今後3年で最大のチャレンジ」と位置づける働き方改革。年が変わって2017年1月5日に行われた祝賀パーティーでの挨拶でも、「(2017年は)働き方改革、断行の年にする」にすると、改めて強調している。


企業でも、副業の解禁や在宅勤務など働き方の選択肢を増やすための取り組みが増えてきているが、この動きは、政府に同調したものではない。将来、日本の人口が減少したときに、今のままの雇用や労働を続けていたのでは、利益を維持できない。さらに、優秀な人材を確保するためには、労働者から選ばれるような魅力的な企業でなければならない。こうした危機感が、働き方改革の原動力になっているのだ。


今回取り上げる伊藤忠商事も、そんな企業のひとつ。安倍総理が働き方改革について言及する前の2013年から朝型勤務をスタートさせている。


■非財閥・非資源で、商社No.1へ

ではなぜ、伊藤忠商事が当時はまだ前例のなかった朝型勤務に取り組むことになったのか、その理由から見ていくことにする。


伊藤忠商事は、機械、エネルギー・化学、繊維、金属、食料、住生活、情報・金融の7つのディビジョンを持つ総合商社だ。国内で唯一、繊維の看板を掲げる「繊維カンパニー」と謳ってはいるが、三菱・三井・住友といった財閥系の商社が強い日本では、存在感はいまいち。それが逆転したのが、2015年11月に発表された2016年3月期決算だった。純利益は前期40%増の2127億円と独走。通期見通しでも3000億円の三菱商事に対して、伊藤忠商事は3300億円とトップに立ったのだ。


明暗を分けた一番の大きな理由は、事業基盤の違いだ。2014年後半から半値以下に急落した原油をはじめ、鉄鉱石や石炭など、資源市況は中国経済の減速を受け、低迷を続けている。資源権益での収益が高い三菱商事や三井物産にとっては、ひとたまりもない。非資源分野に注力してきた伊藤忠商事が、一人勝ちしたというわけだ。ちなみに、2017年3月期の通期見通しでも、3500億円とトップを維持。2017年度は純利益4000億円を目指す。


■成長の原動力は、社員が健康であること

快進撃の理由は、資源市況に起因するものだけではない。実は、伊藤忠商事単体の社員数は4,370名(2016年3月末時点)で、三菱商事の5,379名(2016年9月末時点)と比べて、約20%に当たる1,000人ほど少ない計算となる。少ない社員でトップの利益を上げられるということは、つまり、労働生産性が高いということを意味している。


ではなぜ、これほどの生産性の高さを実現できているのか?そのひとつの答えとなるのが、「健康経営」だ。報道でも大きく取り上げられた、健康憲章は2016年10月に制定されたものだが、具体的な取り組みはもっと前から進められている。中でも代表的なものが、2013年10月に始まった朝型勤務だろう。


導入の背景については、さまざまに語られているが、メディアに出ている情報をまとめてみると、以下の3点が挙げられる。


①顧客対応の改善

繊維や食料関連の企業は朝が早く、8時30分から始業という会社も珍しくない。問い合わせが来ても担当者がいない、という状況を改善したかった。


②40代以降の社員の健康力アップ

海外勤務が長く、国内よりもストレスを感じているケースが多いなど特殊事情もあり、40〜50代の社員の肥満度や喫煙率が全国平均より高いことが、ずっと課題になっていた。


③一人あたりの収益力アップ

中期計画のスローガンとして掲げている「全社員総活躍企業」の実現のため、健康への意識を醸成し、最大限の力を発揮してもらう。


なお、導入前は10時〜15時のコアタイムがあるフレックスタイム制で、ほとんどの社員が10時に出社し、夜遅くまで働いていたという。こうした状況を改善すべく動いたのが、岡藤社長。労使で揉めないよう、まずは課長クラス以上で9時出社を促すことで、半年後はほぼ全員が9時に出社するように。その後、労働組合との話し合いで、フレックスを廃止するに至った。


■朝型が得をする環境づくりで、スムーズに勤務時間が移行

次に、新たに導入した朝型勤務の取組概要を見ていくことにする。「朝型」という言葉通り、夜にダラダラと残業するのではなく、朝早く仕事をすることを奨励するものだが、施策はこれだけではない。


・22時〜5時の深夜勤務の禁止
・20時以降の勤務は原則禁止
※やむを得ず20時以降の勤務が必要な場合には事前申請
・5時〜8時の早朝勤務時間は、インセンティブとして、
割増し賃金(時間管理対象者:150%/時間管理対象外:25%)を支給
・8時前に始業した場合、軽食(朝食)を支給


つまり、強制的に朝型にするのではなく、残業代と同様の給与を支給することで、デメリットを感じさせず、また、無料の朝食など朝にくるメリットをつくるという両軸で、自然と朝型勤務をしたくなるような環境を整えたというわけだ。


とはいえ、商社は仕事柄、接待や飲み会も多く、夜遅くなってしまいがちだ。もちろん、この点でも岡藤社長は抜かりなく対策を立てた。それが、「1」次会は「10」時までに切り上げるという「110運動」だ。商売の話なら1次会で十分、2次会、3次会に行けば翌朝仕事にならないことは自明のことで、それはお客さまにとっても同じなのではないか。こうした発想から、22時以降の飲み会を原則禁止した。


さらに、このように会社として方針を打ち出すことで、社員が「付き合い」を断りやすくなるだけでなく、取引先などお客さまの方でも「伊藤忠さんは22時まででしたよね」と、自制してくれる効果もあるように思える。まさに、一石で二鳥にも三鳥にもなる施策である。


■やっぱり朝型は効率がいい?

朝型勤務を導入して3年半近くが経つが、実際に、働き方はどう変わったのだろうか。まずは、以下の表をご覧いただきたい。


資料:伊藤忠商事HP「朝型勤務」制度の導入 取組効果より 
https://www.itochu.co.jp/ja/csr/employee/safety/working_style/index.html


20時以降の残業は30%から5%に減少し、逆に8時前の出社が45%と約半数にまで増えている。また、時間外勤務時間(最下段)が15%削減されているという事実により、夜の残業が朝にシフトしただけではないことも一目瞭然だ。もちろん前述したとおり、純利益も右肩上がりで、時間外労働の減少による悪影響は、ほぼ皆無だ。


どのような取り組みをするべきか、そもそも働き方改革をするべきか。まだまだ試行錯誤の段階にある大多数の企業にとって、すでに効果を上げている伊藤忠商事の事例は、いい試金石と映ったに違いない。


■始業前の勤務は給与が支払われない?朝のサービス残業に要注意!

意図してというべきか、運よくというべきか、伊藤忠商事が行っている朝型勤務では、時間外勤務の減少、電気使用量の削減など、すべての面においていい結果が出ており、現時点では一定の成功を収めているといえるだろう。


しかし、設計や運用を正しく行わなければ、会社にとって都合のいい制度となる危険性もある。大きなデメリットとして考えられるのが、残業代の未払いが横行してしまうことだ。


一般的に、ギリギリに出社をする人は少ない。遅刻や通勤ラッシュを避けたり、始業前にミーティングがあったりと、30分〜1時間前には席についているという人が多いのではないだろうか。また、リーマンショック以降はどこの会社でも残業規制が厳しくなり、終わらなかった仕事を早朝に来てやっている人も少なくない。こうした早朝勤務に対して会社がどう考えているかというと、「本人の自由意志で朝早く来ているだけ」。つまり、頼んでもいないのに勝手に仕事をしているのだから、残業代は発生しない、というわけだ。


しかし、始業前であっても労働時間とみなされるものは、給与を支払わなければならないというのが、法的な見方だ。たとえば、始業30分前のミーティングが全員参加であれば「使用者の指揮命令下」、仕事が終わらずに早朝出勤をしたのであれば「仕事を行う上で必然的に付随する行為」に当たる可能性が高く、当然、給与が発生する。こうした法的根拠を知らないか、はたまた確信犯なのか、早朝勤務に対して残業代を払わないというのが現状だ。


このような状況で朝型勤務を行うと、いったいどうなるのか。これまでも始業前の勤務については給与を払っていなかったのだから、朝型勤務になっても払わない―こんな企業が出てきても、少しもおかしくない。朝のサービス残業が発生してしまうというわけだ。
朝型勤務を形骸化させないためには、伊藤忠商事のような良識を持った企業が増えるのをただ待つだけでなく、まずは国が先頭に立って周知したり、残業代の未払いを違法行為として取り締まりを強化することも必要になってくるだろう。

(後編へ続く)


記事制作/宮本 雪


ビジネスノマドジャーナル編集部
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