【澤田経営道場】「ビジネスの場」へ乗り込んで来るベンチャーとの共創―新規事業プロによる経営シミュレーション講座 守屋実氏(前編)

ストーリー
2017年01月04日

エイチ・アイ・エスの澤田秀雄会長が「世界で活躍する経営者の育成」を構想し、2015年にスタートした澤田経営道場。2年間におよぶプログラムの中で、道場生は経営者に求められる知識を座学や実践の場を通して学んでいきます。


その中でもひときわ異彩を放っているのが、「新規事業創出と立ち上げの請負人」守屋実さんによる経営シミュレーション講座です。数多くの新規事業に関わり、ベンチャーから大手まで幅広い企業の取締役・顧問・アドバイザーを務める守屋さんは、道場生に対して何を期待し、どのようなノウハウを伝授しているのでしょうか。


インタビューでは、厳しくも真摯な「経営への思い」を語っていただきました。前編は、守屋さんならではの仕掛けが施された経営シミュレーション講座の魅力に迫ります。


危機意識から始まるプログラム。「いつの日かやりたい」ではなく、実際に事業を立ち上げる

Q:まずは、守屋さんが澤田経営道場で展開している「経営シミュレーション講座」のコンセプトを伺えればと思います。

守屋実氏(以下、守屋):

「シミュレーション」とは日本語で「模擬実戦」。であれば、限りなく実戦に近い形で、かつ道場と名乗っているのですから、しっかりと鍛錬するのがちょうど良いのかな、と。ビジネスの実戦の鍛錬は、座学では完結しません。そのため、「経営シミュレーション講座」のアウトプットは「実際に事業を立ち上げること」にしました。


Q:学ぶだけではなく、現実に事業を動かすところまでやるということですね。

守屋:

そうしなければ意味がないと思っています。パワーポイントとエクセルの資料を作って満足していては、学校と何ら変わりません。資料を作るだけではなく、実行するのが大前提。「実践しないことを前提とする実戦」というのはおかしな話ですよね。


こうした類いの講座では、授業の中で協力して事業計画書を作り、「いつの日かやりたいですよね」という話をして終わるのが通常なのかもしれません。もちろんそうした計画づくりも意味があるとは思いますが、普通に考えてみれば、きっとそのアイデアはお蔵入りして終わりだと思うんですよ。やらないことが暗黙の前提。やはりそれでは、何かが足りないのではないかと。


Q:講座の中で、守屋さんは道場生の方々にどのようなメッセージを伝えているのでしょうか?

守屋:

まず、彼らに伝えてきたことは、「実戦が足りない」ということ。今回の経営道場の、4月から始まった座学の授業から新規事業創出を考える今回のプログラムまでには、75日間の時間がありました。そこで、道場生には75日間で何をしたのかを発表してもらいました。直前に、私自身が75日でどんなことに取り組んできたかを話した上で、です。新規事業を生業としている自分は、当然実践なしでは食べていけないので、とにかく動きまくっている。それを話すわけです。


一方、道場生から発表されたものは「何々について勉強していました」といった話ばかり。皆たいてい、枕詞として「言うほどのことはできていません」「発表するのも心苦しいのですが......」といった前置きから話すんですよね。私はこの自己認知に意味があると思っていて。75日間、いかに「実戦ではない」環境で過ごしてきたかを感じてほしいんです。


Q:わざとそうした感情をかき立てるために厳しい話をしている、と。

守屋:

はい。次の授業では各自が考えた事業プランを発表します。そこでも、皆の発表の直前に、私がこれまでに手掛けてきた事業の計画を参考とした、可能な限りリアリティのある事業プランを発表しました。その上で道場生が考えた事業プランを発表する。ここでも自分のプランを振り返って、危機感を感じるわけです。


そこで「やばい」と感じられるかどうか。今のレベルでは、まだまだ実戦で通用しないということを知ってほしいんです。そうしなければ、座学で勉強しただけの「発表ごっこ」のようなことをして満足してしまう。手掛けることを前提に考え動かないと実戦では通用しないんだ、ということを思い知ってもらっています。道場生は皆、回を重ねるごとに危機意識を強く持つようになっていると感じています。


ベンチャーが「実際のビジネスの場」として乗り込み、実行可能な事業プランを作る

Q:その危機意識を「実戦」につなげるために、どのような仕掛けを施しているのですか?

守屋:

せっかくの機会なので、外部のベンチャー企業にもアイデアを持ち込んでもらいました。それが他の、同種の講座とは違うポイントかもしれません。


彼らには彼らの視点で、「ウチのサービスを使えばこんな風に組めるんじゃないか」という簡単な資料だけ用意してもらっていました。ただし、それはあくまでも外部の人間が外から見て考えているだけのプランで、道場生の視点や都合は考慮していないので、実現の可能性は未知数。道場生が自身の視点や都合を含めて実行可能なものに書き換えることで、より現実的な事業プランになっていきます。


Q:ベンチャーが「実際のビジネスの場」として乗り込んで来るわけですね。これは他にはない新しい取り組みですね。

守屋:

そうです。なぜそこまでするかというと、先ほどもお話した通り「実戦でなければ意味がない」から。外部の3社は取り引きするつもりで臨むので、「お勉強して終わり」にはできません。ベンチャーの立場としては、当日のために準備して授業を行い、結果的に「ありがとうございました」と言われるだけでは、まったくもって割が合わない。単なる赤字です。


わざわざそこまでお膳立てして、澤田秀雄理事長に直接アプローチできるかもしれない環境の中で、それでも成立しないということは失注に近いインパクト。そんなことはさせたくないと思っています。「何が何でも勝ち取るぞっ!」と思っている人たちを巻き込むからこそ、事業案が成就するはず。道場生だけで考えた事業案は、きっと授業が終わった瞬間に立ち消えてしまう。なぜなら授業だから。でも外からやってきた3社は、実戦です。だから本気になりますし、事業プランの実行につながるのです。


Q:参加する外部企業は、守屋さんが目星をつけて依頼したのですか?

守屋:

はい。今回は最初の取組みだったので、私自身のネットワークの中で、「事業の意義」と「商売の可能性」が明確にあり、実現性のあるアイデアを提案してくれるであろう企業に声をかけました。


同時に、澤田経営道場の目的をしっかりと理解し、協力してくれる人たちであることも大切です。今後もこうした取り組みを続けていくことになるようであれば、仕組み化なども考えていきたいと思っています。


「始めた人が勝つ。始めなかった人が負ける」喧々諤々の議論を経て生み出された事業案

Q:3社のベンチャーからは、実際にどのような提案があったのでしょうか?

守屋:

位置情報サービスやチャットサービス、既存メディアとのコラボレーションなど、各社の事業に沿った提案が出されました。いずれも旅行会社の事業やテーマパークの集客強化につながる、実効性のあるアイデアだったと思います。


新規事業は、どんなに机上で詰めても、最終的にはやってみなければわからないことばかりです。だからこそ周囲の理解を得ることも大変。綿密にアイデアを練り込むよりも、小さく始めるほうが効果的です。私からは、「できることからさっさと始めるべき」「始めた人が勝つ。始めなかった人が負ける」というメッセージを送りました。


Q:こうした外部の事業アイデアと、道場生が考えた事業アイデアを融合させていくわけですね。

守屋:

そうです。道場生が考えたアイデアの中から「2期生代表事業案」を絞り込み、同時に外部から提案してもらったアイデアをもとに「2期生推薦コラボ案」を決定するという場を持ちました。全員参加での喧々諤々の議論が続き、最終的には社会性、将来性、収益性、実現性、アイデア性、そして自社事業との親和性という6つの軸で事業案を決定しています。外部ベンチャーとも、継続してコミュニケーションを図っているところです。


この実戦を通じて、外部の力の有効性を肌で感じることができたのではないでしょうか。道場生の皆には、案件の生みの親として、最後までカタチにできるよう頑張って欲しいと思っています。


(後編に続く)


取材・記事作成:多田 慎介


【専門家】守屋実
1992年に株式会社ミスミ(現ミスミグループ本社)に入社後、
新市場開発室で、新規事業の開発に従事。自らは、メディカル事業の立上げに従事。
2002年に新規事業の専門会社、株式会社エムアウトを、ミスミ創業オーナーの田口氏とともに創業。
複数の事業の立上げおよび売却を実施後、2010年、守屋実事務所を設立。
ベンチャーを主な対象に、新規事業創出の専門家として活動。
投資を実行、役員に就任して、自ら事業責任を負うスタイルを基本とする。
2016年現在、ラクスル株式会社ケアプロ株式会社メディバンクス株式会社株式会社ジーンクエスト
株式会社サウンドファンブティックス株式会社株式会社SEEDATAの取締役などを兼任。


ビジネスノマドジャーナル編集部
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