思い込みを排除し、データに基づいて"仕組み"を作る。 すると、会社は変わる。 コンサルタント 正金一将氏(中編)

ノマドのキャリア
2016年12月21日

正金一将氏のキャリアを見た場合、多くの方は「外食、中食産業の専門家」と取るでしょう。大手回転寿司企業、大手外資系飲料企業、大手弁当企業、大手寿司企業と、渡り歩いたのは、どれも業界で知らない人がいない企業ばかりです。しかし、その第一歩となる大手回転寿司企業への転職は、かならずしも前向きなものではなかったそうです。


仕事への情熱は全てなくして転職。
最初は店舗の厨房で包丁を握り、手に切り傷を作った。

Q:前回、香港から帰国されるところまで、お話を伺いました。帰国のきっかけは何だったのでしょう?

正金 一将氏(以下、正金)

正直に言うと、あるキャラクターのテーマパークの話が立ち消えになって、かなり落ちこんだんです。やる気が無くなっていた。冗談ではなく、仕事に興味がなくなったんです。また、理由はどうあれ、「失敗したなぁ」と思う事が多く自分の限界を感じていました。それで、帰国して、どこかの会社に就職して、言われたことだけをやっていこう、そう考えて大手回転寿司企業さんに転職しました。


Q:そこで、なぜ、それまで全く経験がない外食産業を選ばれたのでしょう?

正金

当時、外食産業は30兆円市場といわれていたのですが、一社一社の企業規模を見ると、5000億円企業が一社もない。普通、それくらいの市場規模なら、そんな会社が一社や二社あってもいいんです。これは、業界の仕組み、やり方にどこかおかしなところがあるんじゃないかと思ったんです。


Q:そういうことを考えてしまうあたり、やる気はなくなっていなかったのかもしれませんね。実際、入社されてからはどんなことをされたのでしょう?

正金

最初は、いきなり最も忙しい店舗の一つに配属されました。店舗で、生まれて初めて包丁を持ったんです。学生アルバイトの人にこき使われるような立場でした。もともと不器用で最初の5日間で12回指を切りました。若い人から「使えねー」なんて言われていましたね。最初、社長は私の使い道で思惑があったようですが、一切知らされず、店舗にも伝えられていなかったんです。だからバイト達は失業したバイトのおっさんと思っていたらしいです。
しかし、その現場で揉まれた経験は大きく、その後の徹底した現場主義という発想のもとになりました。それまで大きな仕事を手掛けてきていて、どこか、格好付けているところがあったと思うのですが、それが削ぎ落とされました。


現場の感覚にあったズレをデータで解析し、
30%もの"労働時間の削減"を実現した。

Q:実際、新規事業は担当されたのですか?

正金

新規事業というのは、惣菜事業だったんです。いきなり中京地区の店舗統括に任じられました。店舗の労働時間が非常に多く、ビジネスとしてとても利益が出る水準ではありませんでした。店舗で見ていても「何かおかしいなぁ」と思って、もっと労働時間を削れるでしょ、と言っても飲食業界の経験がないので「こんなものですよ」といわれると反論ができなかった。


これはマズいと思って、働いている部下の隣でストップウォッチを持って、各作業を10秒毎に計りました。そのデータを元に、一つ一つの作業を分解していって、それを「これは朝にやる」「これは昼の時間に」「これは閉店後に」という風に再構築した。すると30~40%は労働時間を削減出来ることがわかってきた。


しかし、それをやれと言っても、現場は抵抗するでしょう、「机上の空論だ」と。だから、全店長とマネジャーをホテルに集めて、一週間、一日、一時間ごとの作業、それにかかる時間を詳細に書き出させた。そのうえで、効率化するにはどうすればいいかを考えてもらった。すると私が考えたものと同じになるんです。自然にこれはやらなければならないという話になる。私から説明するよりも、よっぽど深く理解してくれる。


Q:ただ「やれ」というのではなく、「なぜやるのか」を自分で気付いてもらったんですね。

正金

他にも、廃棄率の問題がありました。店舗の仕入れを考えると、欠品がなによりも嫌なので、多めに発注します。すると廃棄が増える。実際、廃棄率が20%以上だったんです。それを指摘しても、「いや、これくらい発注しないと駄目です」と店長は言ってくる。そこで1カ月30日間全店舗の発注は(毎日発注でした)、私が作ったプラン通りにやると宣言したんです。当然、反発は出ましたが、これは黙って言うとおりにしてくれと。ただ、1カ月という期限は決めました。


実際にやってみると、欠品なんて起きないんです。廃棄率も下がる。「悔しいけれど、正金さんの言う通りでした」と何人もの店長が言ってきました。店長達は、自分たちの経験を元に感覚的に判断しているんです。でも、ときにその経験値が邪魔をするときがある。データを取れば分かることです。経験があるが故の思い込み、感覚のズレはある。だからデータを大事にする。そんなことを続けているうちに1年後には中京事業部では売上で24ポイント、利益で15ポイントほど、他の地域と差が付きました。


大きなコスト削減、業務の効率化を実現したければ
"仕組み"を変えていかなければならない。

Q:たしか、その会社では、その後、業績不振の時期があったと思うのですが。

正金

確かに、一時期、業績が落ちこんだときがありました。そこで商品の質を上げて、肉系のメニューを開発するなどの改善に取り組みました。キャラクターとのコラボ企画なども積極的に取り組んで、業績の回復を実現しました。


他にも、例えば割り箸や醤油皿なんかは仕入先を海外から自分で開拓してコスト削減したりもしましたね。トランクとリュックに50kg位の見本を入れて、上海と広州の展示会を1週間ずつ一人で「これをいくらで作れる?」と聞いて回ったりしましたよ。そして、商社を通さないで直輸入をしました。


それまでの仕入先に相談してできるコスト削減は10%とかそんなものです。それ以上のコスト削減、効率化をしたければ、仕組みから変えていかなければならない。一例としては、従来の問屋さんを通すという仕組みを変える。先程の店舗のオペレーションの話でも、一秒単位で時間を計って、それまでのやり方を完全に切りかえる仕組みの改革があったから、劇的な効果を上げることができました。


Q:次に転職された大手外資系飲料企業でも、大幅な業績改善を実現されていますね。

正金

次の会社は、典型的な売上至上主義の会社でした。ところが薄利多売で、何年も「増収減益」だった。私を呼んだのも「売上向上」が目的だったそうですが、話を聞くとそこが問題ではないなと感じました。売上をあげるのではなく、利益を上げることを考えなければならない。


大手外資系飲料企業ではまず現場で物流を担当するトラックに乗せてもらいました。しかも、当時、営業成績がワーストの営業所に配属してもらったんです。そこを5ヶ月で全営業所で五位にまで成績を上げました。その後はいつも一位か二位を争う営業所に変えたんです。


Q:なんだかドラマのようなエピソードですね。

正金

やったことは「既存顧客の見直し」なんです。営業担当は誰でも「去年までの実績」を元に話をします。「去年までここは●●円の売上だったから、今年も...」というわけです。それを見直した。ポテンシャルで考えようと。ある弁当屋の数字を見るともっと売上があってもいいと思えた。でも営業担当は「あそこは何年もこれくらいの売上です」と言う。いや、弁当屋だったらもっと売上があってもいいはずだと確認させたら、競合と100倍の取引があったことが分かったんです。そこにちゃんと営業をさせて、昨年比にして100倍の数字にさせた。似たような話はいくつもありました。


また営業担当は、車で得意先を回りますが、いつも同じルートばかり回っている。少しだけルートを外れたらそこに新しい営業先があるんじゃないか。そういって回るように言っても「ありませんよ」と言うだけなので、自分で所長車に折畳み自転車を積んで回りました。すると、気付く事が色々ありました。


まずは、管轄内に182も寺がある。更には幼稚園、学校が多い。営業は新規取引先へ訪問できると思っている人は多いと思いますが、実は、ほとんどの人は訪問できません。楽な既存の取引先ばかり行きます。なので、182の寺の内、68箇所は私一人か担当営業員と訪問しました。これも長年の経験での思い込みを別の視点で見直してみるという事例になるかもしれませんね。


―現場を見る、そしてデータから客観的に判断することで、経験から生まれる思い込みをなくすことから、"仕組み"を変えていき、いつのまにか高収益体質に変貌を遂げていく。正金氏が在籍し、手を加えた企業はその後も好調であることからも、その変化の意味がよくわかります。次回は、そんな正金氏がこれまでの経験から至った考え、そしてこれからの取り組みを伺います。


取材・記事作成/里田 実彦
撮影/宮本 雪


専門家:里田 実彦
関西学院大学社会学部卒業後、株式会社リクルートへ入社。
その後、ゲーム開発会社を経て、広告制作プロダクションライター/ディレクターに。
独立後、有限会社std代表として、印刷メディア、ウェブメディアを問わず、
数多くのコンテンツ制作、企画に参加。
これまでに経営者やビジネスマン、アスリート、アーティストなど、延べ千人以上への取材実績を持つ。

ビジネスノマドジャーナル編集部
専門家と1時間相談できるサービスX-bookを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。
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