企業の成長の鍵を握る"戦略人事"という考え方。 組織人事ストラテジスト 新井規夫氏(前編)

ノマドのキャリア
2016年11月21日

多くの経営者は「人材は人財だ」と言います。また、多くのベンチャー創業者も「人が大事だ」というでしょう。


しかし、実のところ、経営者は利益を上げる仕組み作りには熱心でも、人事、組織の仕組み作りにはあまり興味がないように見えます。経理・財務や情報システムは専門家を雇用する、あるいはアウトソーシングするのに、人事はなおざりのようにみえるケースさえあるのです。


組織人事ストラテジストの新井規夫氏は、様々な業種、規模の企業で経験を積まれてこられました。その経験から多くの企業が陥る「人事、組織の課題」を知っています。
今回は、そんな新井氏のバックボーンを通じて、「戦略人事」とはなにかを紹介しましょう。


ホテル業から急成長するベンチャー企業、
様々な業種、規模の会社を渡り歩いた。

Q:組織人事ストラテジストという肩書ですが、新井さん御自身が、人事という仕事に興味を持ったきっかけはどのようなところにあるのでしょうか?

新井規夫氏(以下、新井)

私が大学を卒業したのはバブルが弾けた後、いわゆる就職氷河期世代です。そんな環境で入社したのは大手不動産(現:森トラスト)系のホテル会社でした。親会社へのOB訪問で、リゾート事業にも興味があるといったら、そちらに回されたのです。入社当初は研修の一環でベルボーイやホテルのレストランでウェイターなども経験し、本社に戻ってからはシステム部門に配属され、簡単なゴルフ場のシステムの一部を組んだりもしました。そこから人事に異動して、3年ほど主に給与計算を担当していました。


Q:するとそこで人事の仕事に興味を持たれたのですか?

新井

いえ、そこではまだ強くは意識していませんでした。その会社はとてもいい環境で、残業も少なく働きやすかった。でも、私も若く、もっと自分を成長させる厳しい環境に行きたいという気持ちが出て来たんです。


Q:そこから、ベンチャー企業に転職されていますね。

新井

次の会社が、中古車買取のガリバーインターナショナル(現:IDOM)です。当時はガリバーがIPOをした前後の、まさに急成長している真っ只中でした。入社したときの社員数は300名ほどでしたが、1年後に辞めるときには約2倍に増えていました。会社が急成長すれば、社員数も急激に増えていく。すると、バックヤードの業務が追い着かないのです。


私が担当した店舗や社宅の賃貸契約管理も、急激に店舗が増えていくなかで、事務手続が追い着いていなかった。増え続ける社員の社宅の手配も大変でした。1年かかりましたがそういったことをデータベース化し、最終的には外部への業務委託で管理出来る環境を作ったのです。本当はもっとやりたいことがあったのですが、起業する知人に手伝って欲しいという誘いがあり、残念ながら1年で退職しました。


Q:次はその知人の会社で人事として腕を振るうことになるのですか。

新井

ところが、起業の話はすぐにとん挫してしまいました。今思えば、私も未熟でした。その後、しばらく失業手当をもらいながら職業訓練で専門学校に通い、経営やマネジメントに関して勉強をさせてもらいました。その後、別のネットベンチャーに就職しました。当初の役割は人事だけでしたが、最終的には財務・経理・総務などのバックヤードは全て任され、何でもやりましたね。
入社直後にネットバブルが弾け、当初は売上などは厳しい状況でしたが、その会社は何とか3年がかりで黒字化しました。そこで私の役目は果たしたと感じて退職し、2004年からMBA(慶應ビジネススクール)に通い始めました。


Q:それだけのキャリアを積まれて、まだビジネススクールに通おうというのはどういう考えだったのでしょう?

新井

何社か転職してきた中で、経営者に自分の意見を伝えることも多かったのですが、経営者から見ると、私がいくら良いことを言っても、一担当者が思いついた意見としか取ってもらえない。そこに説得力を持たせていくには、体系立てた知識が必要だし、経営の勉強ももっとしなければならないと考えたのです。その後、楽天にお世話になりますが、おかげさまで数十名から数百名、一万人近い規模の会社までの景色を見ることができ、経験させてもらったことはいまに生きています。


楽天での経験が、
組織人事という仕事の面白さに気付かせてくれた。

Q:組織人事ストラテジストとしてのスタートが、楽天時代になるのでしょうか。

新井

そうですね。実は大学院時代はベンチャーのCFOになりたいと考えており、ゼミも財務の小幡績先生にお世話になりました。ただ、就職活動では経験のある人事のポジションも並行して応募をしており、楽天では当時の人事本部長が私のキャリアに興味を持ってくれたようです。ちょうど楽天では社員数が大幅に増え、人事評価・報酬制度を一から作りかえようという話が出ていた時期で、そのプロジェクトを是非やって欲しいと誘われました。
楽天のような規模の会社で人事制度の再編なんて言う仕事は中々できない。これはチャンスだと感じ、入社を決意しました。楽天ではその後、子会社の立て直し(ターンアラウンド)に経営管理・人事の立場から関わることもできました。その経験から、組織、人事の重要性に改めて気が付かされたのです。


会社の成長のためにどんな組織、人材が必要かを考える。
それが組織人事だ。

Q:組織運営、人事の重要性は多くの方が分かっているとは思います。しかし、あえて、組織人事ストラテジストを名乗る新井さんの役割は、どのようなことなのでしょう?

新井

端的に言うと、経営理念・経営戦略を達成するために、どんな組織が必要であり、どんな人材が何人いるのか、そういったことを経営者・人事責任者と一緒に考えていくのです。最近ではHRBP(人事ビジネスパートナー)という役割の認知度も上がって来ていますが、人材の採用や雇用に関する実務というよりも、HRBP的な立場で戦略的に人事のスペシャリスト、組織のスペシャリストを使いこなしていくことを考えるわけです。いま、私に採用や人事の実務を手伝って欲しいという依頼もあるのですが、それはお断りしています。そういった実務が得意な方はたくさんいらっしゃいますので。


そうではなくて、どういう人がこれからの会社に必要かを考えていくお手伝いをするのです。会社が成長するには、どんな組織が必要かを考える。いまある組織や人事の課題に優先順位を付けて、どのように取り組んでいくかを提案する。それがわたしの仕事です。これが人材採用コンサルタントになると、まず「採用することが前提」になってしまいます。例えば、いま、新卒を採用することがその会社にとって最良の選択かどうか、という発想はなくなってしまう。私は、戦略的に見て、いま採用すべきではないと思ったら、そういう提案をします。


楽天一社のためではなく、
社会のために働きたいと思った。

Q:楽天で人事制度の再編など大きな仕事をされています。それでも、そこを辞めたのはなぜだったのでしょう?

新井

楽天では在籍する8年の間にいろいろな仕事を経験させて頂き、今でも大変感謝しています。ただ、役職が上がって、CSRやファシリティなど、人事以外の業務をアサインされたりしましたが、段々と自分が最も興味を持っている戦略人事の仕事とはずれてきているし、「自分でなければならない仕事」でもないと感じました。ポジションや立場ではなく、仕事の内容にこだわり、自分の経験と知識を世の中のためにもっと役立てたい。楽天一社のためではなく、もっと社会の役に立ちたいと思ったのです。


―様々な規模、業種の会社での人事の経験を積んだ新井氏。そこから見えてきた「企業の成長を阻害する要因」について、次回お話を伺います。


専門家:新井 規夫(組織人事ストラテジスト)
新卒入社の大手ホテル業で給与・労務等人事の基礎を学び、急成長ベンチャー2社で管理部門全般(財務/経理/人事/総務)を担当。そこで感じた問題意識から慶應MBAに進む。在学中にCanadaのTop MBA, Richard Iveyに交換留学。2006年に楽天に入社し、人事評価・報酬制度の全面刷新(人材戦略室長)、買収した赤字通信子会社のPMI/事業再生(経営管理/人事部長)、二子玉川への本社移転PJ立ち上げ、CSR推進、Asia地域の人事統括(Singapore駐在)等を歴任。「ベンチャー・成長企業」「組織・人事・経営管理」をキーワードに、「成長の痛み」を未然に防ぎ、企業の健全な成長を加速させることを使命とし、2014年より独立し、複数企業の人事アドバイザリーとして活動中。


専門家:里田 実彦
関西学院大学社会学部卒業後、株式会社リクルートへ入社。
その後、ゲーム開発会社を経て、広告制作プロダクションライター/ディレクターに。
独立後、有限会社std代表として、印刷メディア、ウェブメディアを問わず、
数多くのコンテンツ制作、企画に参加。
これまでに経営者やビジネスマン、アスリート、アーティストなど、延べ千人以上への取材実績を持つ。

ビジネスノマドジャーナル編集部
専門家と1時間相談できるサービスX-bookを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。
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