【"人生三毛作・二足のわらじ"を生きる】前編―「副業禁止規定」が企業の生産性を落とす A.T.カーニー日本法人会長 梅澤高明氏

知見・スキル
2016年09月13日

A.T.カーニー日本法人会長として多数の企業の経営を支える梅澤高明さんは、「新しい働き方」を軸にした社会の変革を提唱し続けています。レギュラーコメンテーターとして出演するテレビ東京「ワールドビジネスサテライト」では、「これからの働き方は人生三毛作となり、二足のわらじが必要となる」と発言し、話題となりました。


定年まで1社に勤め上げるのではなく、同時並行でさまざまな仕事に挑戦し、異なる領域へキャリアチェンジしていく。本インタビューでは、そんな「人生三毛作・二足のわらじ」についての梅澤さんの考えをじっくりと伺います。前編では、働き方の変革が必要となっている社会的背景や、個人・企業に求められる意識改革についてお聞きしました。


「二度、三度の大胆なキャリアチェンジ」が当たり前にならなければ、社会に矛盾が生じる

Q:梅澤さんは出演されている『ワールドビジネスサテライト』で、「これからの働き方は人生三毛作となり、二足のわらじが必要となる」とお話されていました。このテーマについて、お考えを詳しくお伺いしたいです。

梅澤高明さん(以下、梅澤):

まず背景として、人の寿命がこれからどんどん伸びていくという事実があります。ライフサイエンスは、ただ単に寿命を伸ばすのではなく、「健康寿命」の長期化を実現させようとしています。次に、産業の移り変わりや、企業の盛衰も早いサイクルで起きていますね。AI(人工知能)が進化すればさらに加速するでしょう。さらには、社会保障の問題もあります。持続可能性を考えると、なるべく多くの人が「社会保障の負担者」にならなければならない。


この3つを合わせて考えていけば、相当数の人が人生の途中で一度ならず二度、三度とキャリアチェンジすることが当たり前でなければ、辻褄が合いません。このキャリアチェンジを、「二毛作、三毛作」と呼んでいるんです。


これからは、三毛作や場合によっては四毛作まで、新たなキャリアに挑戦する人がたくさん出てくるんじゃないでしょうか。私も最近は「100歳まで働き続けよう」と思っています。今は二毛作目なんですが、三毛作ではどんなことをしようかと考えているところです。


Q:ご自身の一毛作目、二毛作目というのは、どの時期を指すのでしょうか?

梅澤:

一毛作目は新卒で入社した日産自動車です。マーケティングや営業に携わっていました。その後アメリカの大学院に入学し、卒業と同時にA.T.カーニーのニューヨークオフィスに入社して、それからもう20年ほどコンサルタントを続けています。これが二毛作目ですね。


「二足のわらじ」を履くメンバーを増やすために、副業禁止を撤廃すべき

Q:今まさに、二毛作目の真っ只中ということですね。もう一つの「二足のわらじ」という考え方についても教えてください。

梅澤:

次のキャリア、つまり二毛作目や三毛作目に移るために、個人はどんな準備をするべきか。何も経験がないところにいきなり飛び込むのはリスクが高いので、じわじわと次の領域の関連スキルを身につけながら、だんだん軸足を移して行くような形が望ましいですよね。そうした意味では、人生の中で相当の期間、「二足のわらじ」を履いていることが今後のキャリア作りには必要なのだと思います。


これはその人が所屬している企業や組織にとってもメリットがあります。外部とつながっている人が多ければ多いほど、その会社のイノベーションのポテンシャルが大きくなるはずです。構成員のつながっている先が多様であればあるほど、その会社に入ってくる情報の刺激も多いし、新しい取組みを始めるときのパートナー候補も見つけやすいですよね。そう考えると、二足のわらじを履いているメンバーや幹部が一定数いる会社のほうが、おそらく元気なんじゃないでしょうか。


Q:とはいえ、二足のわらじを全面的に容認し、推進している会社は日本ではまだまだ少ないように思います。新しい働き方の流れが加速するとしたら、企業はどんな風に変わっていくべきだと思いますか?

梅澤:

副業禁止規定は撤廃したほうが良いと思っています。これはあくまでも企業の勝手ではありますが、国の政策としても「撤廃」の流れを推進するべきだと考えていて、参加している政府の委員会でもこれを提言しています。


当社にも、NPOの活動に注力している人は相当数いますし、2つの仕事を持つ人も現れています。コンサルタント5割・大学教授5割といったような形ですね。


Q:A.T.カーニーではそれを当たり前のこととして、全面的に容認しているのですか?

梅澤:

ケース・バイ・ケースで話を聞き、中味を見てゴーを出しています。会社として積極的に止めるようなことはないですね。特に「コンサルタントと大学教授」のようなケースだと、副業から自社の仕事への新たな知見のフィードバックも期待できるので、奨励したいと思っています。経営大学院で客員教授や講師を務めるコンサルタントは、常に数人はいます。私自身も10年以上前から、そんな二足のわらじを履いてきました。


Q:経営トップが、「有効な二足のわらじを社員に勧める」ということも重要なのかもしれませんね。

梅澤:

そうですね。ロールモデルが何人か誕生すれば、それがきっかけとなって徐々に広がっていくのだと思います。ただ、現状ではほとんどの企業が副業禁止規定を持っていますよね。


優秀な人材が最高の生産性を発揮するために必要なこと

Q:企業がなかなか副業容認に踏み出せない理由は何でしょうか?

梅澤:

「優秀な人材を囲い込みたい」という思いがどうしても強いのだと思います。その人の時間も、マインドシェアも。


しかし、優秀な人であればあるほど、さまざまな分野に好奇心が向くもの。その好奇心を生かす形で会社と人材との間にウィン・ウィンの関係を作ることができれば、その会社は伸びていくはずなんです。そうなるためにも、優秀な人材が持っている好奇心や情熱を自社の都合で囲い込んでいくのは、避けるべきだと思うんですよね。企業は、個々人が持つ多種多様なベクトルのエネルギーをどう活用するか、いかにして賢く個人の才能を使うかというスキルを磨くべき。特に私たちのようなプロフェッショナルファームはなおさらだと思います。欲しいのはその人の才能であり、エネルギーであり、情熱ですからね。


ホワイトカラー、特にクリエイティブクラスと言われる人材の生産性は、簡単に上下します。その人が本来持っているポテンシャルが10だとして、10あるいは12のパワーを出してくれるときと、5ぐらいしか出してくれてないときと、3ぐらいに落ちてしまうとき。これは人と状況によって、容易に変わるんです。とても振れ幅が大きい。


そう考えると、社員の何割が「クリエイティビティ・マックスの状態になっているか」が、その会社のパワーを決めるとも言えます。どれだけ多くの人に全開モードでいてもらえるか。そういう仕事を作り出せているか。才能を引き出す、エンジンを点火する作業とも言えますが、これが会社の一番大切な仕事であり、マネジメントの役割ですよね。その観点で副業禁止が果たして効果的と言えるのかどうか、考えていくべきでしょう。


Q:かつて日本企業の強さの源とも言われていた「終身雇用制度」も、将来の不確実性が増す中で崩壊しつつあると言われています。この点についてはどのようにお考えですか?

梅澤:

終身雇用を掲げるなら95歳まで雇ってよ、と言いたいですよね(笑)。「60歳まで働ける環境を作ることが終身雇用です」というのは、そろそろ常識として通用しなくなるので。60歳を65歳に伸ばす程度では中途半端だと思います。それよりは、働く個人がいろいろな選択肢を検討できるような流動的、効率的な労働市場をつくり、企業もそんな時代に合った人事制度を整えるべきだと思います。


Q:働く個人としては、「60歳や65歳まで頑張れば定年退職できる」というよりは、「もっと長く現役で働かなければいけない」という危機感のほうが強くなってきている気がします。

梅澤:

そういう危機感を持つ人は増えていると思います。冒頭でもお話しましたが、年齢に関わらず働き続けられるようにしていかなければ、社会全体の辻褄が合わなくなってしまう。これは構造的に避けられない事実でしょう。


取材・記事作成/多田 慎介
撮影/宮本 雪


梅澤 高明
東京大学法学部卒業、マサチューセッツ工科大学経営学修士課程修了。
日産自動車を経て、A.T.カーニーニューヨークオフィス)に入社。
2007年に日本代表、2012年に本社取締役に就任。
著書に『最強のシナリオプランニング』(東洋経済新報社)、
『グローバルエリートの仕事作法』(プレジデント社)など。



ビジネスノマドジャーナル編集部
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