【物流改革】物流現場からお金は回り始める。キャッシュ・コンバージョン・サイクルを、経営に活かす

知見・スキル
2016年04月24日

コストダウンは物流の一側面でしかない

サイコロを上から見て1の目しかないと思うのは、物流と聞いてコストダウンしかイメージを思い浮かべないことと同じです。

確かに経営的には物流にはコストダウンのミッションがあります。しかし、それは一側面であって、その他にも物流は5つの症状を物語るものです。物流現場は企業の台所として、人の目に触れることを嫌います。それは、在庫を見れば製造の作り方、営業の売り方、返品を見れば顧客支持の程度がわかり、総体としての在庫量を見れば資金の用途が見えるものです。それらをして経営の実の姿が想像できて、経営者の性格や方針の現実性、日々唱えられているモットー、スローガンまで実際に目にすることもできるのです。


キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)を理解する

「金は天下の回りもの」とは古いことわざですが、どこから回り始めるかといえば、それは物流の現場です。財務経理の用語で在庫は<未実現利益>と呼びます。在庫は経営資産であり、運営資金のスタートにもなります。

それは、経営でいうキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC:cash conversion cycle)を理解すればよいでしょう。

経営にどれほどの資金が必要なのか、財務諸表の貸借対照表を見ればわかります。資産の部には商品在庫があり、資本と負債がどのように変換されているかがわかります。

売上は売掛金であり、キャッシュになるには回収まで日数が必要です。商品在庫や生産活動では、買掛金としてモノはあっても代金は未払いになっています。

手持ちの在庫や売掛金は資産であり、買掛金は負債です。これらの関係をわかりやすくするものが、CCCの計算式です。


キャッシュ・コンバージョン・サイクル:CCC とは、企業における<現金化の日数>を指すもので次の式で表されます。


売上債権回転日数+棚卸資産回転日数-仕入債務回転日数


売上債権回転日数、棚卸資産回転日数、仕入債務回転日数はそれぞれ、次の式で表され、物流部門が注目してさらに着手できるのは、棚卸資産回転日数なのです。


売上債権回転日数=年度末売上債権確定額÷1日あたり売上高

棚卸資産回転日数=年度末棚卸資産確定額÷1日あたり売上高

仕入債務回転日数=年度末仕入債務確定額÷1日あたり売上高


 

この式から分かることは、営業活動をしていて、最終的にキャッシュを手にできるまでの日数が何日か、ということです。

売掛金回収に30日、手持ち在庫が60日分、支払いサイトが60日後なら、

30+60−60=30 となり、売上の30日分のキャッシュが手元にないと資金繰りが成り立たないことになります。つまり、CCCを計算すると「今日の売上金は30日後にしか手元キャッシュにならない」ということを示しているのです。


黒字倒産にならないために。CCCの数字が大きいほど、キャッシュを手にできるまでの期間が長い

売上債権回転日数は、販売したものの代金がキャッシュになるまで何日掛かるか、を示しています。モノを売るためには、仕入れたり、製造したりするわけで、そのためには先にキャッシュでモノや材料などを買わなければなりません。先にキャッシュで支払って買ったり、製造したモノは、売れるまでは在庫として寝ていることになるのです。

在庫が売れるまでに何日掛かるかを示すのが、棚卸資産回転日数。モノや材料を買う時には、キャッシュではなく掛けで買うことが多いので、こちらはキャッシュとして支払うまでに猶予があります。

モノを買ってからキャッシュが出ていくまでにどのくらいの猶予期間があるかを示したのが、仕入債務回転日数。


式から分かるように、このCCCの数字が大きいほど、営業によってキャッシュを手にできるまでの期間が長いことになり、好ましくありません。その間のキャッシュを支えるには、借金をするか、資本を調達するしかないわけで、いずれにしても元手を用意するということで、資金調達に奔走しなければならないからです。


「売れれば売れるほど手元資金がショートして、最悪の場合には黒字倒産(在庫は残っている)の憂き目にあう」というのが、このことなのです。


CCCで理解する、DELLのビジネスモデル

 

かつて一世を風靡したDELLのビジネスモデルは、製造直販を売り物に2-6週間の受注生産でPCを販売していましたが、これはCCCの面で驚くべき数値をはじき出していたのです。

 

DELLは売掛金は14日で回収する、部品在庫は30日分だけ手持ち、生産委託や仕入れに関わる支払いサイトは60日となっていて、14+30--60=△16 つまり、手元資金に不安などなく、毎日キャッシュが溢れていたのです。

 

さすがにこのビジネスモデルに気づくのは近くにいた組み立て業者の台湾ASUSで、今やライバルとしてDELLを脅威に陥れたのは有名な話です。

 

また、米国アマゾン本社が巨額の設備投資を繰り広げ、ようやく決算が黒字になったのはごく最近だったという不思議話も、このCCCのお陰だったわけなのです。


キャッシュ・コンバージョン・サイクルを小さくするには?

したがって、できればキャッシュ・コンバージョン・サイクルを小さくする、すなわちキャッシュをなるべく早くに手にできるようにすることが望ましい。小さくするには以下の方法があることがわかります。


A売上債権回転日数を下げる

B棚卸資産回転日数を下げる

C仕入債務回転日数を上げる


売上債権回転日数を下げるには、なるべく早く得意先から代金を回収することになりますが、実際のところ代金回収を早めるには商習慣を変えたり、新たな取引条件に変更しないと難しいでしょう。

EC通販やネットショップではカード即時決済という前渡し金商売もあり、これは売上債権回転日数がマイナスということだから究極のCCCと言えます。卸売業や製造業がネットショップや製造直販という事業に力を入れたいのは、こんな理由もあるからです。

棚卸資産回転日数を下げるには、モノを仕入れて、もしくは製造してから売るまでの期間をできるだけ短くすることです。トヨタのカンバン方式や受注生産販売が良い例になります。

生産ラインや物流ルートで製品や仕掛品などが滞留しないよう、様々な改善を進めることで、在庫を極限まで絞ることができるのです。

仕入債務回転日数を上げるには、なるべく仕入先に支払いを待ってもらうことですが、自分は売上債権の回収を早めておいて、一方で仕入の代金は待ってくれ、というのはどうも虫が良すぎますね。とはいえ、もし自社が大きなバイイングパワーを持ち、価格その他の交渉力を握っているなら、仕入先も交渉に応じざるを得ないかもしれません。自らが早く大きくなることです。


天下の回りものであるキャッシュが、実は物流現場から始まる

「キャッシュフローを重視する」とはよく言うが、そのキャッシュを生み出すための道具として「キャッシュ・コンバージョン・サイクル」を指標として採用している会社はまだまだ少ないようです。また、そのための具体策を上に述べたような全社的な物流条件として取り組みを進めている会社も多くはないのです。

天下の回りものであるキャッシュが、実は物流現場から始まることは覚えておくべきことでしょう。


専門家:花房 陵(ロジスティクス・トレンド株式会社 代表取締役) 
1955年生れ東京都出身 慶応大学経済学部卒 証券会社を経て、生産・物流コンサルティング歴30年。28業種200社の物流センター開発と改善指導に携わり、多くの商材でSCM実現化課題を解決してきた。2012年より月刊誌ロジスティクス・トレンド発行人。主な著作に「見える化で進める物流改善」、「物流リスクマネジメント」共に日刊工業新聞社刊。

ビジネスノマドジャーナル編集部
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