【キャリア】ベンチャー立上げ人材のキャリア 第8回:会社の成長フェーズで訪れる「自分の役割は終わった」瞬間

ノマドのキャリア
2016年02月14日

business_nomad_moriya_shiga

ビジネスノマドとの関わりによってキャリア形成に大きな影響を受け、新卒でベンチャー創業期のメンバーに入りながらスキルを身につけ独立していった事例です。

第8回は、ベンチャー立ち上げで多様な業務にハンズオンで入っていた守屋 実さんが、会社の成長フェーズが変化した中で立ち上げ人材としての自身と会社との関係性をどのように変えていったか、について伺いました。



週半分ぐらいくる外部人材。中からはどう見える?

Q:守屋さんはケアプロ立ちあげ当初、週どれくらい来ていたんですか?

志賀 大(以下、志賀):

当時は、週半分くらいいましたよね。

守屋 実(以下、守屋):

うん、残り半分は別のベンチャーでした。当時は2社の役員兼務の状態でした。


Q:そういう関わり方をしている人って内部からはどう見えるんですか?いない時は何をしてるんだろうとか。

志賀:

「どっか他のところで働いているんだろうな」というのは感じてました。その点は守屋さんも気にしたのか、みんなに伝えてくれました、2つの会社で同時に働いてるという話を。

守屋:

うん、そりゃ共有しておかないとね(笑)

志賀:

言うタイミングを変に遅らせるのはよくないですよね。僕も今回、2つのクリニックを同時にやるってことになって、決まる前から松阪の医師には言うようにしていました、そうしないとこっちがつまらなくなったから別のところも手伝うことにしたのかな、と思われると嫌だし、関係性にも響いてくる。やっぱり、わりと早めに言ってしまうのが吉だと思いますね。



わかりやすい手本が身近にあるからこそ、自分の市場価値で判断できる

Q:志賀さんにとって、独立するという意思決定における守屋さんの影響は大きかったですか?

志賀:

守屋さんの様子や話をそばで見たり、聞いたりしていたのは少なからず自分にも影響がありました。特に、最近すごいと思ったのは、守屋さんが、ご自身でかかわっている会社の中でも、特に著しい成長をしている会社の取締役を降りたんですね。

本人に聞くともう自分の役割は終わったから、自分にはもう手に負えない大きさに成長してしまったんだよとおっしゃるんですが、その時この人は本当に新規事業のプロなんだなって思いました。普通なら、そこまで成長させたなら居座るじゃないですか。


Q:そうですね、社内でのポジションも築けて、居座ろうと思えば居座れる。

志賀:

そこを、守屋さんは支援先の会社のフェーズが進むと、「自分の役割は終わった」と会社から離れてしまう。稼働の頻度も下げ、報酬も下げていく。そうして別の会社の支援を開始して、そこの比重を今度は上げていく。

これが会社と個人としても健全な付き合い方だと感じました。初めてのキャリアがベンチャーの人材でも、自分のできることとやりたいこと、市場価値を考えながら他の可能性や選択肢を見て考えていくことも重要だなと。


Q:会社と個人の両者にとって、一番良いタイミングを見極めて働く感じですね。ベンチャーの立上げ人材は、起業家精神があるので独立する人も多いと思います。その場合には守屋さんのような働き方、かかわり方は参考になるかもしれません。



深く付き合う相手は「自分で判断できる人」

Q:守屋さんの周りには、独立心が強く魅力的な人材が多いように見えます。志賀さんのように自律的に動けて成長できる人材が周りにいる感じですね。そういった人材を選別しているのですか?

守屋:

特に選別しているわけではないです。僕のコミュニケーションは、質問し返すスタイルだから、最終的に何にも自分で判断できない人とはコミュニケーションが深まらない。志賀さんみたいに最終的に判断できる人は壁打ちのスピードが早くなっていくから、どんどん深くなるし、結果として関係性も続きます。


Q:自然とコミュニケーションを取り続けていたら、密度の濃い人が自分で判断して成長して、結果としてその会社を担う人材になっているという感じですね。

守屋:

最終的に自分で判断できる人って、仕事をして成長していくうちにどんどん自分で自立していく方向に進むことが多いですね。「守屋さん、決めてください!」って人はどちらかというと受け身というか、会社の手足になる人だと思う。僕のコミュニケーションのやり方だと、自立して、最終的には巣立っていく人のほうが、コミュニケーションは活発になります。


Q:なるほど、自分で判断ができる人ですね。ケアプロを巣立った志賀さんは、現在はどのような事業をやっているのでしょうか?

志賀:

松坂で、地元の医療機関と連携を取りながら、一次救急に特化したクリニックの事業をやっています。行政から地元の救急医療体制の一部を担う形で業務委託契約も行っているクリニックで、民間が地元の一次救急を委託するのは日本初の試みです。この日本初トリアージ型救急クリニックである「いおうじ救急クリニック」を2015年11月に立ち上げることができました。


Q:救急医療の再構築に取り組む、医師と看護師による事業として注目されていますね。ソーシャルベンチャーでの経験を活かした起業ですね。まだ立ち上がったばかりかと思いますが、事業は順調ですか?

志賀:

うまくいっている、と言っても良いかなと思います。まだ立ち上げて間もないものの、毎日新聞、産経新聞、日経メディカルやテレビでも先進的な取り組みとして取り上げていただけました。広報戦略や、地元の連携が予想よりうまく行ったこともあり患者数は見込んでいた事業計画の1.3倍ほどで現在推移しています。


Q:素晴らしい立ち上がりになったのですね。今の事業立上げにおいて、どのような点でこれまでの経験が活かされたと思いますか?

志賀:

事業計画の策定だけでなく、行政機関との交渉や、現場スタッフたちとのコミュニケーションや組織運営まで、幅広く経験が活かされていると思います。自分的にはこのような業界での新しい取組には、各団体との折衝・事業への意思・ビジネスの3つを成り立たせることが重要だと思っています。


Q:各団体の折衝とはどのようなものでしょうか?医療機関立上げという事業の特殊性ならではの難しさがあると思います。

志賀:

各団体の折衝は、医療機関を立ち上げたいと考えている企業が最初に理解しなくてはいけないポイントかもしれません。医療は地域連携の側面を持っています。例えば、自院だけで治療をしきれない場合は、患者の紹介を行うことがありますし、逆に、任されることもあります。地域での立ち回りを間違えると患者の受け入れ拒否や紹介されないケースが発生してしまい、医療機関の運営がしにくい状況を作ってしまうこともあります。どんな医療機関を運営するかによりますが、地域に馴染みながら、スタートさせるのが吉です。

また、医療は公共の側面がありますので、行政と良好な関係を気づき認知してもらうことで、行政の広報誌など公共性の高い媒体に載ることが可能です。


Q:次の「事業への意志」についてはいかがですか?

志賀:

事業への意志ですが、どんな医療の形を目指しているのか、医療界にどんな風に向き合うのかを決めないままスタートすると規模拡大のタイミングで医療スタッフがついてこないケースがあります。医療者はある意味職人です。医療に対して真っすぐ取り組み、その技術を高めてきたプロ集団なので、価値観を共有しておくことがとにかく大切です。規模拡大のタイミングでは、「こんな医療を提供していきたいわけではない。」と優秀なスタッフ程退職する傾向があるので注意が必要です。


Q:ケアプロとはまた違った価値観を共有したのでしょうか?

志賀:

自分の経験から言うとケアプロでは、「健診弱者を救え」いおうじ応急クリニックでは「一次救急医療難民を救え」がキーワードです。どちらも社会背景に対してどんな医療の形を提供したいのかをはっきりさせてからスタートさせることで、価値観が一致した人材を集めることに成功し、結果的に採用面・人事マネジメント面などで大きくメリットを出していると思います。


Q:最後にビジネスという面ではいかがでしたか?

志賀:

ビジネスの面ですが、コンセプトを明らかにすることだと思います。

何に強い医療機関を提供するのか、差別化があることが大切です。ケアプロの時は「価格(ワンコイン)×早い」でしたが、今回のいおうじ応急クリニックは「時間帯の差別化×応急特化」です。

同じ地域の医療機関が診療していない時間帯で実施することで、患者数を伸ばし、応急に特化することで、各団体との調整や行政から地域の一次救急体制構築の委託を受けることができました。

もう少し説明すると、応急というのは、体調が悪くなったら取りあえず行くところです。継続的に診るところではないので、継続的に診る必要があった場合はすぐに他の医療機関に紹介します。

一見、患者を逃がしているようにも見えますが、体調が悪くなったら行くところというイメージを出すことができれば、医療圏は松阪市民全体として捉えることができるため、むしろ集患につながります。また、患者の発掘につながることを実施しているので、地元医療機関との関係構築も良好になり、結果行政からの一次救急の委託もできる状況になりました。


Q:「継続的に診る」とのトレードオフになる「応急特化」を打ち出して差別化したのですね。わかりやすいコンセプトですね。

志賀:

わかりやすいコンセプトは、広報戦略上もメリットが大きいです。開業3カ月で、いおうじ応急クリニックは地上波で2度テレビで特集が組まれ、その他メディア10社以上に取り上げてもらっています。これがきっかけで他の地域への展開が見えています。


Q:今後の展望などについてはいかがお考えですか?

志賀:

今後は、他の市町村からの引き合いもある取り組みなので、他地域展開なども視野に入れています。また、今回の取り組みで、医療機関の立ち上げに関してのノウハウが溜まりましたので、医療機関の立ち上げ支援・拡大支援は積極的に行いたいですね。


Q:守屋さんとは今回の立上げでは相談していますか?どのような相談をされているのですか?

志賀:

守屋さんには、資金調達・事業運営・広報で1度相談しました。

細かい話というよりは、ざっくりの方向性をまず相談乗ってもらい、後は、人を紹介して頂いたりしています。事業を運営していくと、刻一刻と悩みが変わりますが、その悩みにマッチする人を紹介してくれて、すごく助かりました。結局、独立してもお世話になりっぱなしです(笑)。

守屋:

引き続き志賀さんらしく頑張ってね。何かあったら相談してね。

志賀:

はい、頑張ります。


取材・インタビュア協力・撮影/サーキュレーション インターン生 小林


【専門家】守屋実
1992年に株式会社ミスミ(現ミスミグループ本社)に入社後、新市場開発室で、新規事業の開発に従事。メディカル、フード、オフィスの3分野への参入を提案後、自らは、メディカル事業の立上げに従事。2002年に新規事業の専門会社、株式会社エムアウトを、ミスミ創業オーナーの田口氏とともに創業、複数の事業の立上げおよび売却を実施後、2010年、守屋実事務所を設立。設立前、および設立間もないベンチャーを主な対象に、新規事業創出の専門家として活動。投資を実行、役員に就任して、自ら事業責任を負うスタイルを基本とする。2016年現在、ラクスル株式会社、ケアプロ株式会社、メディバンクス株式会社、株式会社ジーンクエスト、株式会社サウンドファン、ブティックス株式会社、株式会社SEEDATAの取締役などを兼任。
【専門家】志賀大
2010年にケアプロ株式会社に創業期メンバーとして参画。 当時日本初のサービスであるワンコイン健診サービス(現:セルフ健康チェックサービス)の責任者として従事。退社をする2015年までに、営業・採用・事務・広報・ロジスティクスなどを経験。ケアプロ在籍中に一般社団法人みんなの健康を2011年に設立。2015年にみんなの健康を株式会社として再度設立し、日本で初めて行政より民間委託を受けた、一次救急専門のクリニック「いおうじ応急クリニック」を開始。医療機関の創業・開業やヘルスケア分野におけるコンサルティングを行う形で活動をしている。2016年現在では、年間自宅看取り件数が国内5本の指に入る在宅医療法人にてハンズオンコンサルティングも行っている。
ビジネスノマドジャーナル編集部
専門家と1時間相談できるサービスX-bookを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。
▼ この記事を気に入ったらシェアをお願い致します。 ▼

オススメ記事